2011年01月06日

悪い知らせの伝え方、受け取り方

「検査の結果、がん細胞が検出されました。
肺に影があって、そこからがん細胞が出てきたということですから、診断は肺がんです。」

 肺癌診療を専門としている私にとっては、幾度となく繰り返してきた説明です。
 しかし、これほど伝えにくい説明もありません。
 なぜなら、肺癌は日本人の死因の筆頭たる悪性新生物の中でも、年間死亡者数1位を誇る疾患だからです。
 
 我々がん診療を専門とする医師にとって「悪い知らせの伝え方」はとても大切な技術です。
 医学教育においてはあまり省みられない技術ですが、実地で働く医師にとって欠くことが出来ません。
 
 もう10年位前になりますが「金持ち父さん、貧乏父さん」という本がベストセラーになりました。
 この中に出てくる金持ち父さんは
 「学校では勉強は教えるが、お金との付き合い方は教えてくれない。
 生きていく上でこれほど大切な知識はほかにあまりないと思うのだが。」
 と話します。
 今回のことにあてはめると
 「医学部では医学知識は教えるが、患者との付き合い方は教えてくれない。
 診療をする上でこれほど大切な知識はほかにあまりないと思うのだが。」
 といった感じになります。

 「悪い知らせ」とは「患者さんの今後の見通しを根本から変えてしまうような」くらいいやな話、というくらいの意味で使われます。
 がんと診断がついたこと、治癒が不能であること、有効な治療手段がないこと、治療の効果が得られなかったこと、治療後に病状が再度悪化したこと、などなど、日常診療でいつも遭遇するような内容ばかりです。
 それでも、病状の正しい理解は適切な治療あるいはケアを行う上で不可欠です。
 いやな話とはいえ、患者さんができるだけ無理なく受け入れられるように配慮するのも、我々医師の力量であり、そのためのテクニックが「悪い知らせの伝え方」というわけです。
 
 私もかつて、上司から繰り返し繰り返しこのことを叩き込まれました。
 別にがんの診療現場に限らず、病状説明のときにはいつも応用できる考え方だと思っています。

 具体的にどのように説明時に気をつけているかについては、また別の機会にお話しします。


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