2021年10月10日

放射線治療を前処置とした免疫チェックポイント阻害薬

 表題のテーマについて、しばし物思いにふけっていた。
 忘れないうちに書き残しておく。


・姑息的放射線照射による遠隔腫瘍縮小(アブスコパル)効果と免疫チェックポイント阻害薬 その1
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e992230.html 

・姑息的放射線照射による遠隔腫瘍縮小(アブスコパル)効果と免疫チェックポイント阻害薬 その2
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e992257.html


<がん特異抗原の流出と各種がん治療に関する仮説>
 手術:マクロレベルでの治療なので、がん特異抗原の流出にはほとんど影響しない
 放射線治療:がん細胞を物理的に破壊する→様々ながん特異抗原蛋白、ペプチドが作成されやすい
 化学療法:がん細胞を化学反応として破壊、あるいは静止化する→放射線治療に比べるとがん特異抗原、ペプチドの多様性は乏しい


<放射線治療を前処置とした免疫チェックポイント阻害薬施行時のがん免疫サイクルの仮説>
1)放射線治療による前処置
 中枢神経系への放射線治療→がん特異抗原が体循環にまで行きわたるかどうか不明
 中枢神経系以外への放射線治療→がん特異抗原ががん組織から流出する

2)抗CTLA-4抗体で、抗原提示細胞のがん特異抗原認識を増強
 放射線治療後によりがん特異抗原の流出が活性化、かつ多様化され、抗原提示細胞の提示能力のレパートリーが広がる
 
2.5)抗原提示細胞が細胞障害性T細胞を教育する過程を増強
 この系が見つかれば、新たな治療薬創生に繋がるかもしれない

3)抗PD-1 / PD-L1抗体で細胞障害性T細胞によるがん細胞攻撃を増強
 認識可能ながん特異抗原が多様化することで、細胞障害性T細胞ががん細胞を攻撃する効率が高くなる


<考え得る臨床試験コンセプト>
・局所進行肺がんに対する化学放射線療法に引き続く抗CTLA-4抗体+抗PD-1 / PD-L1抗体±手術
・骨転移を伴う進行期肺がんに対する姑息的放射線治療に引き続く抗CTLA-4抗体+抗PD-1 / PD-L1抗体
・中枢神経系転移を伴う進行期肺がんに対する全脳照射に引き続く抗CTLA-4抗体+抗PD-1 / PD-L1抗体
・進行期肺がんに対し、がん特異抗原流出を目的とした定位照射と、それに引き続く抗CTLA-4抗体+抗PD-1 / PD-L1抗体


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この記事へのコメント
中枢神経系転移でも造影される病変であれば既に脳血液関門が破綻しているので、特にガンマナイフのような定位照射なら照射後まもなく多量のがん抗原が流出しそうです。一方、予防的あるいは微小・少数転移に対する全脳照射では関門破綻が弱いため抗原性が弱いかもしれませんね。
Posted by とある放射線治療医 at 2021年10月10日 16:18
とある放射線治療医さんへ

 いつもコメントありがとうございます。中枢神経系転移周辺の微小環境に関するご考察、なるほどと感じ入りました。ご指摘のように、よりaggressiveな病巣の方が、体循環にがん特異抗原が流れ込みやすいかもしれませんね。同様のロジックが髄膜癌腫症でも成り立つのならば、新たな治療コンセプトにつながるかも知れません。
Posted by tak at 2021年10月12日 07:59
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