2016年04月29日
PD-L1発現を見るための検査
既に非小細胞肺癌で承認されたニボルマブは年間3000-4000万円、近い将来承認されるであろうペンブロリズマブは年間1億円の薬価がかかります。
このうち90%以上は国民全体が税金や借金として負担します。
それだけに、治療効果予測因子を開発し、不要な使用を避けるのが喫緊の課題といわれています。
いまのところはっきりしているのは、腫瘍細胞もしくは腫瘍に浸潤する炎症細胞のPD-L1発現状態が予測因子として一定の有用性がありそう、ということです。
しかしながら、そのPD-L1発現状態を見るための方法はさまざまあり、今のところ標準化されていません。
そのために、ニボルマブが使用可能になった現在も、PD-L1発現をみる検査を一般臨床で利用することは出来ません。
おそらく、ペンブロリズマブの承認時にはコンパニオン診断(Dako 22C3 assay)が利用可能になるでしょう。
また、標準化を待たず、各治療薬ごとにコンパニオン診断薬が異なる、という状況になるでしょう。
既にEGFRやALKの治療では、コンパニオン診断の取り扱いが問題になっています。
個人的には、科学的に妥当ならばどの検査でもよくて、ほぼ商業的な問題だろうと思っています。
今年のAACRでなされた報告では、異なるPD-L1検査間の一致率が検証され、どの検査でもよさそう、という結論に至ったようです。
ただ、それぞれの検査でどこにカットオフ値を設定したら結果が一致する、ということは示されていますが、治療効果予測を行う上でどこにカットオフ値を設定するか、というのはまた別問題です。
AACR 2016: Comparison of Three Different PD-L1 NSCLC Diagnostic Tests Shows a High Degree of Concordance
Abst.# LB-094, Ratcliffe et al, AACR Annural Meeting 2016
現在市販されている3種のPD-L1関連検査の検出精度はどれも同様であることが報告された。
Ratcliffe女史は、
「PD-1抗体、PD-L1抗体は単独療法でも併用療法でも、さまざまな癌種で効果があることが確認されつつある」
と語り、どの患者がPD-L1を高発現していて、PD-1抗体やPD-L1抗体の効果が期待できるのか、いくつかの異なる検査で効果的に調べることができると説明している。
「これまでは、いくつかあるPD-L1関連検査が同じようにPD-L1発現を検出できるのかはっきりしていなかった。それぞれの検査が異なる背景で、異なる抗体を用いて、異なる手順で開発されてきた。このことは、治療効果が期待できる患者選別の信頼性を損なうなど、実地臨床におけるさまざまな問題に結びつく」
今回は、durvalumabの開発段階でVentana社とAstraZeneca社が共同開発したVentana SP263抗体、Pembrolizumabの開発段階でDako社がコンパニオン診断として開発し米国食品医薬品局の承認を受けたDako 22C3抗体、そしてNivolumabの開発段階でDako社が開発したDako 28-8抗体について検討した。
これら3種ともに、各抗体でPD-L1蛋白を認識して、腫瘍細胞の細胞膜を染色し、その陽性割合を評価する。それぞれの検査種ごとにカットオフ値を設定し、検査結果がカットオフ値を超えた場合、その患者は治療反応性が期待できると判定される。
非小細胞肺癌患者から採取された約500の生検検体が評価された。
Ventana SP263でカットオフ値を25%としたものと、Dako 28-8でカットオフ値を10%としたものが同等だった。また、Ventana SP263とDako 22C3でそれぞれカットオフ値を50%とした場合も、高精度で結果が一致していた。いずれも、90%以上の一致率だった。
このうち90%以上は国民全体が税金や借金として負担します。
それだけに、治療効果予測因子を開発し、不要な使用を避けるのが喫緊の課題といわれています。
いまのところはっきりしているのは、腫瘍細胞もしくは腫瘍に浸潤する炎症細胞のPD-L1発現状態が予測因子として一定の有用性がありそう、ということです。
しかしながら、そのPD-L1発現状態を見るための方法はさまざまあり、今のところ標準化されていません。
そのために、ニボルマブが使用可能になった現在も、PD-L1発現をみる検査を一般臨床で利用することは出来ません。
おそらく、ペンブロリズマブの承認時にはコンパニオン診断(Dako 22C3 assay)が利用可能になるでしょう。
また、標準化を待たず、各治療薬ごとにコンパニオン診断薬が異なる、という状況になるでしょう。
既にEGFRやALKの治療では、コンパニオン診断の取り扱いが問題になっています。
個人的には、科学的に妥当ならばどの検査でもよくて、ほぼ商業的な問題だろうと思っています。
今年のAACRでなされた報告では、異なるPD-L1検査間の一致率が検証され、どの検査でもよさそう、という結論に至ったようです。
ただ、それぞれの検査でどこにカットオフ値を設定したら結果が一致する、ということは示されていますが、治療効果予測を行う上でどこにカットオフ値を設定するか、というのはまた別問題です。
AACR 2016: Comparison of Three Different PD-L1 NSCLC Diagnostic Tests Shows a High Degree of Concordance
Abst.# LB-094, Ratcliffe et al, AACR Annural Meeting 2016
現在市販されている3種のPD-L1関連検査の検出精度はどれも同様であることが報告された。
Ratcliffe女史は、
「PD-1抗体、PD-L1抗体は単独療法でも併用療法でも、さまざまな癌種で効果があることが確認されつつある」
と語り、どの患者がPD-L1を高発現していて、PD-1抗体やPD-L1抗体の効果が期待できるのか、いくつかの異なる検査で効果的に調べることができると説明している。
「これまでは、いくつかあるPD-L1関連検査が同じようにPD-L1発現を検出できるのかはっきりしていなかった。それぞれの検査が異なる背景で、異なる抗体を用いて、異なる手順で開発されてきた。このことは、治療効果が期待できる患者選別の信頼性を損なうなど、実地臨床におけるさまざまな問題に結びつく」
今回は、durvalumabの開発段階でVentana社とAstraZeneca社が共同開発したVentana SP263抗体、Pembrolizumabの開発段階でDako社がコンパニオン診断として開発し米国食品医薬品局の承認を受けたDako 22C3抗体、そしてNivolumabの開発段階でDako社が開発したDako 28-8抗体について検討した。
これら3種ともに、各抗体でPD-L1蛋白を認識して、腫瘍細胞の細胞膜を染色し、その陽性割合を評価する。それぞれの検査種ごとにカットオフ値を設定し、検査結果がカットオフ値を超えた場合、その患者は治療反応性が期待できると判定される。
非小細胞肺癌患者から採取された約500の生検検体が評価された。
Ventana SP263でカットオフ値を25%としたものと、Dako 28-8でカットオフ値を10%としたものが同等だった。また、Ventana SP263とDako 22C3でそれぞれカットオフ値を50%とした場合も、高精度で結果が一致していた。いずれも、90%以上の一致率だった。
2016年04月29日
BRAF変異を有する非小細胞肺癌とdabrafenib
原発性肺がんにおいて、ALK遺伝子再構成、ROS1遺伝子再構成、RET遺伝子再構成など、希少な遺伝子異常がさまざま報告されています。
BRAF V600E変異もそういった希少な遺伝子異常のひとつです。
今回は、このBRAF変異に対するdabrafenibの報告です。
EGFR遺伝子変異を含め、上記の各遺伝子異常に対する治療の中では、ちょっと物足らない結果のような気がします。
また、治療を受けた患者において、実に17%が皮膚がんを発症したというのは、本当ならちょっと受け入れがたい話です。
これまた、ちょっと前のASCO evening postから。
Planchardらは、BRAF変異陽性の進行非小細胞肺癌患者に対し、BRAFキナーゼ阻害薬であるdabrafenibの有効性を検証する第II相試験を行い、Lancet Oncology誌に発表した。BRAF V600E変異は肺腺癌の1-2%に認められるとされる。
治療歴のない6人を含む、84人の患者が本試験に参加し、1回150mg、1日2回のdabrafenibを服用した。患者の平均年齢は66歳、50%が女性で、76%が白人、22%がアジア人、37%が非喫煙者だった。化学療法歴は、1レジメンが51%、2レジメンが18%、3レジメンが31%だった。
78人の既治療患者において、奏効割合は33%(26人)、病勢コントロール割合は24%(19人)だった。未治療の6人では、奏効割合は67%(4人)だった。既治療患者での奏効持続期間中央値は9.6ヶ月で、未治療患者の奏効持続期間は3.2-12.5ヶ月の範囲だった。既治療患者の無増悪生存期間中央値は5.5ヶ月で、未治療患者の無増悪生存期間は4.0-16.6ヶ月の範囲だった。
Grade 3以上の有害事象は、皮膚扁平上皮癌発症が12%、無力症が5%、基底細胞癌発症が5%だった。深刻な有害事象は42%に認められた。dabrafenibに関連すると思われる頭蓋内出血により1人が死亡した。
BRAF V600E変異もそういった希少な遺伝子異常のひとつです。
今回は、このBRAF変異に対するdabrafenibの報告です。
EGFR遺伝子変異を含め、上記の各遺伝子異常に対する治療の中では、ちょっと物足らない結果のような気がします。
また、治療を受けた患者において、実に17%が皮膚がんを発症したというのは、本当ならちょっと受け入れがたい話です。
これまた、ちょっと前のASCO evening postから。
Planchardらは、BRAF変異陽性の進行非小細胞肺癌患者に対し、BRAFキナーゼ阻害薬であるdabrafenibの有効性を検証する第II相試験を行い、Lancet Oncology誌に発表した。BRAF V600E変異は肺腺癌の1-2%に認められるとされる。
治療歴のない6人を含む、84人の患者が本試験に参加し、1回150mg、1日2回のdabrafenibを服用した。患者の平均年齢は66歳、50%が女性で、76%が白人、22%がアジア人、37%が非喫煙者だった。化学療法歴は、1レジメンが51%、2レジメンが18%、3レジメンが31%だった。
78人の既治療患者において、奏効割合は33%(26人)、病勢コントロール割合は24%(19人)だった。未治療の6人では、奏効割合は67%(4人)だった。既治療患者での奏効持続期間中央値は9.6ヶ月で、未治療患者の奏効持続期間は3.2-12.5ヶ月の範囲だった。既治療患者の無増悪生存期間中央値は5.5ヶ月で、未治療患者の無増悪生存期間は4.0-16.6ヶ月の範囲だった。
Grade 3以上の有害事象は、皮膚扁平上皮癌発症が12%、無力症が5%、基底細胞癌発症が5%だった。深刻な有害事象は42%に認められた。dabrafenibに関連すると思われる頭蓋内出血により1人が死亡した。
2016年04月29日
肝転移と放射線治療
肺がんには転移しやすい場所があります。
いつも講義で学生に伝えていますが、
・肺(原発巣以外の別の部分へ)
・肝臓
・副腎
・骨
・脳
というのが好発部位です。
これらのうち、よく緩和的な放射線治療の対象となるのは、神経症状の出やすい脳や、痛みの出やすい骨です。
定位放射線照射が一般化してからは、手術後の肺内転移再発(新規発症の肺癌も含めて)に対しても放射線治療を行うことが多くなりました。
ここ数年は手術よりも体の負担が少ない定位放射線照射が行われる機会が多いようです。
その一方で、肝転移に対する放射線治療はあまり聞きませんし、私自身も自分の担当患者さんにしたことはありません。
そういったわけで、肝転移巣への放射線照射にどの程度の意義があるのかわからないのですが、肝転移巣に対する放射線照射の効果には、もともとのがんがどこから発生したものかによって差がある、といった報告があります。
大腸がんからの肝転移は効果が乏しいようです。
個人的には、原発巣がどこか、という検討は治療選択上はあまり役立たない気がします。
一方、彼らが現在計画中の、遺伝子発現スコアにより放射線照射量を決める、というアプローチは、放射線治療の個別化という意味では多少の魅力があります。
ただし、放射線照射量を規定する因子は、腫瘍の放射線感受性よりも周囲臓器の照射限界量と考えられていますから、治療抵抗性の腫瘍にはより多くの放射線を当てる、という取り組みの一方で、いかに周囲臓器への照射を範囲・照射量ともに抑えるか、という工夫も必要になるでしょう。
以下、ちょっと前のASCO evening postより。
論文自体は2015年の7月にpublishされており、なぜ今回取り上げられたのかは不明です。
Study Finds Radiosensitivity Differences Between Liver Metastases Based on Primary Histology
Ahmed et al.
放射線照射は、主な病巣のコントロールが1年以上できている場合において、肝転移巣の治療選択肢として一般的である。しかし、治療効果には個人差があり、効果予測因子ははっきりしていない。Moffitt Cancer CenterのAhmedらは、放射線治療感受性は腫瘍の原発巣がどこかによって異なると報告した。
以前、Ahmedらは、10種の異なる遺伝子発現状態に基づいて、放射線治療感受性を予測するradiosensitivity index(RSI)を開発した。Moffitt Cancer CenterのJavier Torres-Rocaは、
「RSIは現在利用できる治療効果予測スコアの中では最もよく検証された指標であり、放射線感受性に関するより深い理解や放射線治療の個別化アプローチに向けての重要なステップである」
とコメントしている。
彼らはまた、腫瘍転移巣の放射線感受性が解剖学的な部位によって異なることをRSIを用いて示した。たとえば、大腸がんの肺転移巣は、肝転移巣よりも放射線感受性が高い。
今回は、肝転移巣に研究対象を絞った。RSIを利用した放射線感受性に関するTotal Cancer Care Databaseから、372ヶ所の異なる肝転移巣を抽出、分析した。その結果、肝転移巣は原発巣によって異なる放射線感受性を示していた。
調査対象となったのは、肝転移を有し、放射線治療を受けた33人の患者だった。原発巣の内訳は、大腸がん、乳がん、肛門がん、肺腺がんだった。大腸がんからの肝転移は、他に比べて有意に放射線治療抵抗性だった。大腸がんからの肝転移巣10ヶ所は経過観察期間中に制御不能となり、一方他の部位からの肝転移巣は、経過観察期間中には悪化していなかった。
Ahmedは、
「今回の検討により、肝転移巣に対する治療選択において原発巣の組織型が重要な判断基準であり、放射線治療医が治療適応を判断する際に意識しなければならない要素であることがはっきりした。この結果を踏まえ、肝転移巣に対する定位放射線照射を行う際に、RSIスコアなどの遺伝子スコアをもとに照射量を設定する臨床試験を計画している」
と話していた。
いつも講義で学生に伝えていますが、
・肺(原発巣以外の別の部分へ)
・肝臓
・副腎
・骨
・脳
というのが好発部位です。
これらのうち、よく緩和的な放射線治療の対象となるのは、神経症状の出やすい脳や、痛みの出やすい骨です。
定位放射線照射が一般化してからは、手術後の肺内転移再発(新規発症の肺癌も含めて)に対しても放射線治療を行うことが多くなりました。
ここ数年は手術よりも体の負担が少ない定位放射線照射が行われる機会が多いようです。
その一方で、肝転移に対する放射線治療はあまり聞きませんし、私自身も自分の担当患者さんにしたことはありません。
そういったわけで、肝転移巣への放射線照射にどの程度の意義があるのかわからないのですが、肝転移巣に対する放射線照射の効果には、もともとのがんがどこから発生したものかによって差がある、といった報告があります。
大腸がんからの肝転移は効果が乏しいようです。
個人的には、原発巣がどこか、という検討は治療選択上はあまり役立たない気がします。
一方、彼らが現在計画中の、遺伝子発現スコアにより放射線照射量を決める、というアプローチは、放射線治療の個別化という意味では多少の魅力があります。
ただし、放射線照射量を規定する因子は、腫瘍の放射線感受性よりも周囲臓器の照射限界量と考えられていますから、治療抵抗性の腫瘍にはより多くの放射線を当てる、という取り組みの一方で、いかに周囲臓器への照射を範囲・照射量ともに抑えるか、という工夫も必要になるでしょう。
以下、ちょっと前のASCO evening postより。
論文自体は2015年の7月にpublishされており、なぜ今回取り上げられたのかは不明です。
Study Finds Radiosensitivity Differences Between Liver Metastases Based on Primary Histology
Ahmed et al.
放射線照射は、主な病巣のコントロールが1年以上できている場合において、肝転移巣の治療選択肢として一般的である。しかし、治療効果には個人差があり、効果予測因子ははっきりしていない。Moffitt Cancer CenterのAhmedらは、放射線治療感受性は腫瘍の原発巣がどこかによって異なると報告した。
以前、Ahmedらは、10種の異なる遺伝子発現状態に基づいて、放射線治療感受性を予測するradiosensitivity index(RSI)を開発した。Moffitt Cancer CenterのJavier Torres-Rocaは、
「RSIは現在利用できる治療効果予測スコアの中では最もよく検証された指標であり、放射線感受性に関するより深い理解や放射線治療の個別化アプローチに向けての重要なステップである」
とコメントしている。
彼らはまた、腫瘍転移巣の放射線感受性が解剖学的な部位によって異なることをRSIを用いて示した。たとえば、大腸がんの肺転移巣は、肝転移巣よりも放射線感受性が高い。
今回は、肝転移巣に研究対象を絞った。RSIを利用した放射線感受性に関するTotal Cancer Care Databaseから、372ヶ所の異なる肝転移巣を抽出、分析した。その結果、肝転移巣は原発巣によって異なる放射線感受性を示していた。
調査対象となったのは、肝転移を有し、放射線治療を受けた33人の患者だった。原発巣の内訳は、大腸がん、乳がん、肛門がん、肺腺がんだった。大腸がんからの肝転移は、他に比べて有意に放射線治療抵抗性だった。大腸がんからの肝転移巣10ヶ所は経過観察期間中に制御不能となり、一方他の部位からの肝転移巣は、経過観察期間中には悪化していなかった。
Ahmedは、
「今回の検討により、肝転移巣に対する治療選択において原発巣の組織型が重要な判断基準であり、放射線治療医が治療適応を判断する際に意識しなければならない要素であることがはっきりした。この結果を踏まえ、肝転移巣に対する定位放射線照射を行う際に、RSIスコアなどの遺伝子スコアをもとに照射量を設定する臨床試験を計画している」
と話していた。