2015年05月28日
急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療 up to date
今日のお話は肺がん診療とはあまり関係ない内容なので、興味のない方はご遠慮ください。
昨夜、別府市内で急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療に関する講演会があり、参加してきました。
ARDSとは、簡単に行ってしまえば急性(電撃性、と言ってもいいかも知れません)に発症、進行する、極めて重篤な呼吸不全状態の総称です。
敗血症や重症の誤嚥性肺炎など、背景になる疾患はさまざまですが、ARDSそのものが集中治療を要する病態で、治療の考え方も一般内科医と専門家では天と地ほど違います。
以下、心に残ったことを箇条書きにして残します。
・2012年にARDSの定義がかわった(The Berlin Definition, JAMA 2012)
・1週間以内の急性発症例を対象にすると定義された
・心不全や輸液過剰負荷では説明できない急性呼吸不全
・従来の急性肺障害(Acute Lung Injury, ALI)という概念がなくなった
・酸素化の定義は、PEEP>5の状態で評価する(つまり、なんらかの陽圧換気下でないと診断基準を満たせない)
・P/F ratio<300をmild, P/F ratio <200をmoderate, P/F ratio 100をsevereと定義する。
・剖検でDADが確認される割合は、mildで12%, moderateで40%, severeで58%(AJRCCP 2013,761-767 / JAMA 2012)
・死亡率はmildで20%, moderateで41%, severeで52%
・診断後治療を開始して、診断から7日目以降もARDSの定義を満たす場合、組織像がDADである確率は58%
・腹臥位治療を考慮
・筋弛緩薬は使用するが、できるだけ短期間で
・換気条件はlow tidal(6ml/理想体重kg, 多くても10ml/理想体重kg以下)、high PEEP
・ECMOを使おう!
・不均等喚起による肺胞過伸展、ずり応力による虚脱肺の肺障害のこと
・肺胞過伸展を抑えるために・・・(これは従来通りの考え方ですね)
1)plateau圧は<30cmH2O
2)1回換気量は少なめに
3)PEEPは高めに(>5cmH2O)
4)pressure control ventilationで
・新しい換気モードで有効性が示されたものはいまのところない
・ECMO(Extra corporeal membrane oxygenation)の有効性が世界的に認知されていて、severeな患者に適用しなかったら海外では「なんでECMO使わないの?なに考えてんの?」的な見方をされる
・人工呼吸管理自体が肺障害のみならず多臓器不全の原因となり得るため、ECMOを用いて肺を休める戦略が必要
(Pipeling JAMA 2010, 2521- / Slutsky NEJM 2013, 2126-2136 / Fan BMC medicine 2013, 85-)
・ECMO適用症例の末梢血には多分化能を有する骨髄前駆細胞が増加している(!)(AJRCCP 2010 226-237)
・全国的な枠組みで、ARDSに対するECMO利用を推進する取り組みが進んでいる-ECMO project, 九州では済生会熊本病院、大分大学病院、長崎大学病院、琉球大学病院なども参加)
・ARDSに対するステロイドは否定的な見解が多く、少なくとも発症14日目以降の症例に対する新規処方、インフルエンザ肺炎を基礎疾患とするARDSに対しては禁忌と考えて良い
・済生会熊本病院内での検討では、ステロイドパルス療法は予後を悪化させていた
・微小血栓と多臓器不全のおはなし
・DICを合併したARDSは予後不良(Gando Critical Care 2013)
・急性期DIC診断基準で4点未満と4点以上では、30日死亡率(29% vs 48%)、60日死亡率(33% vs 59%)と差があった
・3点では60日死亡率62%、2点では60日死亡率26%で、4点未満でも予後不良な人は結構いた
・人工呼吸管理を要する敗血症患者さんに対するリコモジュリンが有効であるとの報告あり(Yamakawa et al)
・特発性肺線維症急性増悪に対するリコモジュリンの効果の報告(Isshiki, respiration 2015)
・マクロライドがDADに対して有効である(CHEST 2012)
・間質性肺炎急性増悪に対して、AZM注とニューキノロン注の効果を比較したところ、AZMの方が優れていた(Kawamura, respiration, 2015)
・ARDS 159例を剖検したところ、滲出期、増殖期、線維化期の病巣が混在していた(Thille Lancet Resp Med 2013)
・ARDSには2つの表現型がある(Lancet Resp Med 2014 611-620)
・APACHE II, SOFA scoreと予後が相関する
・・・おなかいっぱいです。
ECMOはともかくとして、ステロイドの使い方やAZM注の使い方は、自分の診療にも役立てられそうです。
昨夜、別府市内で急性呼吸促迫症候群(ARDS)の治療に関する講演会があり、参加してきました。
ARDSとは、簡単に行ってしまえば急性(電撃性、と言ってもいいかも知れません)に発症、進行する、極めて重篤な呼吸不全状態の総称です。
敗血症や重症の誤嚥性肺炎など、背景になる疾患はさまざまですが、ARDSそのものが集中治療を要する病態で、治療の考え方も一般内科医と専門家では天と地ほど違います。
以下、心に残ったことを箇条書きにして残します。
・2012年にARDSの定義がかわった(The Berlin Definition, JAMA 2012)
・1週間以内の急性発症例を対象にすると定義された
・心不全や輸液過剰負荷では説明できない急性呼吸不全
・従来の急性肺障害(Acute Lung Injury, ALI)という概念がなくなった
・酸素化の定義は、PEEP>5の状態で評価する(つまり、なんらかの陽圧換気下でないと診断基準を満たせない)
・P/F ratio<300をmild, P/F ratio <200をmoderate, P/F ratio 100をsevereと定義する。
・剖検でDADが確認される割合は、mildで12%, moderateで40%, severeで58%(AJRCCP 2013,761-767 / JAMA 2012)
・死亡率はmildで20%, moderateで41%, severeで52%
・診断後治療を開始して、診断から7日目以降もARDSの定義を満たす場合、組織像がDADである確率は58%
・腹臥位治療を考慮
・筋弛緩薬は使用するが、できるだけ短期間で
・換気条件はlow tidal(6ml/理想体重kg, 多くても10ml/理想体重kg以下)、high PEEP
・ECMOを使おう!
・不均等喚起による肺胞過伸展、ずり応力による虚脱肺の肺障害のこと
・肺胞過伸展を抑えるために・・・(これは従来通りの考え方ですね)
1)plateau圧は<30cmH2O
2)1回換気量は少なめに
3)PEEPは高めに(>5cmH2O)
4)pressure control ventilationで
・新しい換気モードで有効性が示されたものはいまのところない
・ECMO(Extra corporeal membrane oxygenation)の有効性が世界的に認知されていて、severeな患者に適用しなかったら海外では「なんでECMO使わないの?なに考えてんの?」的な見方をされる
・人工呼吸管理自体が肺障害のみならず多臓器不全の原因となり得るため、ECMOを用いて肺を休める戦略が必要
(Pipeling JAMA 2010, 2521- / Slutsky NEJM 2013, 2126-2136 / Fan BMC medicine 2013, 85-)
・ECMO適用症例の末梢血には多分化能を有する骨髄前駆細胞が増加している(!)(AJRCCP 2010 226-237)
・全国的な枠組みで、ARDSに対するECMO利用を推進する取り組みが進んでいる-ECMO project, 九州では済生会熊本病院、大分大学病院、長崎大学病院、琉球大学病院なども参加)
・ARDSに対するステロイドは否定的な見解が多く、少なくとも発症14日目以降の症例に対する新規処方、インフルエンザ肺炎を基礎疾患とするARDSに対しては禁忌と考えて良い
・済生会熊本病院内での検討では、ステロイドパルス療法は予後を悪化させていた
・微小血栓と多臓器不全のおはなし
・DICを合併したARDSは予後不良(Gando Critical Care 2013)
・急性期DIC診断基準で4点未満と4点以上では、30日死亡率(29% vs 48%)、60日死亡率(33% vs 59%)と差があった
・3点では60日死亡率62%、2点では60日死亡率26%で、4点未満でも予後不良な人は結構いた
・人工呼吸管理を要する敗血症患者さんに対するリコモジュリンが有効であるとの報告あり(Yamakawa et al)
・特発性肺線維症急性増悪に対するリコモジュリンの効果の報告(Isshiki, respiration 2015)
・マクロライドがDADに対して有効である(CHEST 2012)
・間質性肺炎急性増悪に対して、AZM注とニューキノロン注の効果を比較したところ、AZMの方が優れていた(Kawamura, respiration, 2015)
・ARDS 159例を剖検したところ、滲出期、増殖期、線維化期の病巣が混在していた(Thille Lancet Resp Med 2013)
・ARDSには2つの表現型がある(Lancet Resp Med 2014 611-620)
・APACHE II, SOFA scoreと予後が相関する
・・・おなかいっぱいです。
ECMOはともかくとして、ステロイドの使い方やAZM注の使い方は、自分の診療にも役立てられそうです。