広い意味でのチーム医療

tak

2021年08月25日 06:00

 ちょっと肺がん診療とは話題が離れるかもしれないけれど。

 今の職場では、これまでの職場よりも遥かに他の職員の力に頼ることが多い。
 医師になって3-4年目くらいまでは、担当患者の福祉関連業務や施設入居調整など、全部自分でしていたような気がする。
 今では、かなり分業化されている。
 
 最近、外来で定期診療していた患者さんが亡くなられた。
 もう何十年も前に脳出血を患い、右不全片麻痺、運動性失語の後遺障害があった。
 終日車いす生活をしていて、日常生活全般において介助を要する。
 その介護の担い手は、認知症を患うも体はそれなりに元気なご主人で、ご自宅で二人で生活していた。
 本人はもとより、ご主人の認知症も進行するにつれ、家庭での生活が徐々に荒れていった。
 腐った食品が食卓に上るのは当たり前。
 汚物まみれのベッドで眠りにつく。
 おむつは替えてもらえない。
 当然、定期内服薬の管理はご夫妻ともにままならない。
 病院で診療することしかできない医師には、直接生活面の支援をする力はない。
 遠方に住まうご家族は、様子を見に来れても週末くらいで、新型コロナウイルス感染症が蔓延してしまうとそもそも県をまたげない。
 結果として、尿路感染症、急性腸炎、脱水、転落による骨折などで、入退院を繰り返すことになる。
 バリエーションは様々あるかもしれないが、子供たちと離れて暮らさざるを得ない独居老人世帯、老々介護世帯は、どこもこんな感じだろう。

 そんな中、様々なプロが二人の生活を支えてくれる。
 家庭環境まで含めた生活全般を把握し、ケアプランを作成して管理するケアマネージャー。
 体調の変化、服薬管理、病状悪化時の受診手続きなどを担う訪問看護師。
 食事の準備、選択、入浴などを支援するホームヘルパー。
 訪問看護師と絶えず情報交換し、受診時の診療に活かそうとする外来看護師。
 病状悪化時に入院生活の支援を行う病棟看護師、介護福祉士。
 事務手続きの支援、金銭的負担軽減支援を行う医事課職員。
 退院後の生活設計(長期入院療養するのか、施設に入るのか、環境を整えて自宅退院を目指すのか)と必要な諸手続き、他の医療機関との連携業務を担う医療ソーシャルワーカー。
 できるだけ本人の能力を活かして社会復帰を促す理学療法士、作業療法士、言語聴覚士。
 入院療養中の栄養管理、食種調整を行う栄養士、管理栄養士。
 必要に応じて心理面のサポートをする臨床心理士。 
 ざっと数え挙げるだけでも、これだけの専門職が患者の生活を支えている。

 そして、直接患者には接しないものの、療養環境の維持に必要不可欠な職種がまだある。
 施設管理課のスタッフや、病院清掃に携わるスタッフである。
 今の勤め先では、病院食の調理や清掃業務は外部委託している。
 どちらの職種も極めて朝が早い。
 私よりも若いスタッフが、朝の5時や6時(場合によってはもっと早いかも)から黙々と勤務しておられるのを当直勤務中にお見掛けすると、本当に頭が下がる。

 今回取り上げた患者は、約2か月前に体調不良で入院し、精査したところ進行S状結腸癌が見つかった。
 認知機能低下(による病状理解不能)とPS低下のため支持療法のみで経過観察の方針となり、先日亡くなった。
 もう20日以上たつが、ご主人は未だに奥さんが亡くなられたことを理解できないでいるらしい。
 切ない。
 

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