大分での肺がん診療
進行が速い進行肺腺がんに遭遇したらどう振る舞うか
tak
2021年09月06日 06:00
先日に引き続き、webinerで米国識者の症例検討を聴講した。
細かい議論の内容は分からないが、なんとなく同じことでみんな迷うんだなというのはわかった。
変な親近感を感じてしまった。
・31歳、女性
・(多分痩せる目的で)胃のバイパス手術の既往あり
・喫煙歴はほとんどなし:1日20本を1年間(1-pack-year)
・どんどん悪化する咳、息切れ、食欲不振、体重減少を主訴に救急外来を受診した
・胸部レントゲン写真で、右大量胸水を認めた
・CTで、右大量胸水、右肺門部腫瘍、両側肺門・縦隔のリンパ節腫大、肝・骨に無数の転移性腫瘍を認めた
・頭部MRIでは、脳転移の所見はなかった
・胸水穿刺し細胞診へ提出したところ、低分化腺がんと診断された
・免疫染色でCK7+, TTF1+, napsinA+が確認され、原発性肺腺がんと診断された
・PD-L1発現状態を調べたところ、90%陽性だった
・次世代シーケンサーを用いた網羅的ドライバー遺伝子変異解析を行うことにしたが、結果が返ってくるまでに2-3週間を要す
さて、どうするか、とのこと。
PD-L1発現が90%以上なんだから、迷わずペンブロリズマブで、と言ってしまいたいところだが、そうは問屋が卸さない。
パネリストによると、
・なんといっても若くて、ほぼ喫煙歴がなく、しかも臨床経過が激しい
・これだけで、何らかのドライバー遺伝子変異の関与を強く疑う
・何らかの遺伝子変異があり、分子標的薬を使う可能性があるからには、不用意に免疫チェックポイント阻害薬を入れるべきではない
・免疫チェックポイント阻害薬を使用したのちに、何らかのドライバー遺伝子変異が見つかった場合には、却って不利な状況に陥りかねない
・免疫チェックポイント阻害薬使用後に分子標的薬を使うと、薬剤性肺障害のリスクが高い
・待機する余裕があれば、ドライバー遺伝子変異の結果が返ってくるまで薬物療法は控えた方がいい
・待機する余裕がなければ、カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法で凌ぎつつ、時を待つのが良い
実際のところ、右胸腔ドレナージを行い、待機していたそう。
果たして予感は的中し、ALK融合遺伝子陽性だった様子。
ここから論点は、ALK阻害薬をどのように使うかに移った。
第一世代:クリゾチニブ
第二世代:セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ
第三世代:ロルラチニブ
もはやクリゾチニブを初回治療で選ぶことはなく、第二世代を選ぶか、第三世代を選ぶかが焦点である。
第二世代(セリチニブ以外)、第三世代、それぞれにクリゾチニブを比較対象として、第III相臨床試験で優越性が示されている。
ことにアレクチニブを指示する話題は豊富である。
<アレクチニブ>
・J-ALEX and ALEX
→
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e902483.html
・ALEXと脳転移
→
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e916528.html
・ALEX試験のアジア人サブグループ解析
→
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e916937.html
・ALEX試験、最新の生存解析結果
→
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e976408.html
・J-ALEX試験最終解析・・・ありがちな結論だけどやっぱりすごい。
→
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e989928.html
<ブリガチニブ>
・Brigatinib、進行ALK肺がんの一次治療でクリゾチニブを凌駕 ALTA-1L study
→
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e942885.html
<ロルラチニブ>
・ロルラチニブ、一次治療へ・・・第III相CROWN試験
→
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e979184.html
・改めてCROWN試験
→
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e980198.html
第二世代から入って、耐性化を確認してから第三世代を使うのか。
いきなり最初から第三世代を使うのか。
いろいろ議論された結果、明確な結論は導き出されなかった。
第二世代、第三世代、どれもいい薬じゃん、とのこと。
効果よりも、副作用を判断基準にして、患者の希望を聞きながら選びましょうということになった。
ことに第三世代に関しては、中枢神経系への効果が高いゆえの中枢神経系副作用や脂質異常症が問題となる。
記憶障害やらなんやらは、患者のアイデンティティにも関わる問題なだけに、治療開始前後の治療説明が必須である。
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