「その他」の中にこそ、新たな発見が眠っている。
誰もが分かってはいるけれど、実際にそれを見出すのは簡単ではない。
今年の肺癌学会総会にシンクロしたもののひとつに、CLIP1-LTK融合遺伝子も挙げられる。
2021/11/25付でNature誌に発表され、国立がん研究センターのプレスリリースでも公表された。
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https://www.nature.com/articles/s41586-021-04135-5
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https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2021/1125/index.html
出現頻度は2/542=0.37%ととてつもなく低い。
NTRKやBRAF遺伝子変異に勝るとも劣らない頻度の低さだ。
とはいえ、ロルラチニブが効くということならば、CLIP1-LTK融合遺伝子を何とか見つけなければ、という気持ちになる。
治療開始前後のPET画像は、きわめてインパクトがある。
そして、夢がある。
これを見て心を揺さぶられない研究者・臨床家は、仕事をする資格がないと私は思う。
CLIP1-LTK融合遺伝子を標的としたロルラチニブの医師主導フェーズ2試験が、登録予定患者数を16人として2022年の早期に開始される予定とのこと。
自ら見出したドライバー融合遺伝子を対象とした世界初の医師主導臨床試験であり、国立がん研究センター東病院のスタッフは勇往邁進していることだろう。
The CLIP1–LTK fusion is an oncogenic driver in non‐small‐cell lung cancer
Hiroki Izumi, Shingo Matsumoto, et al., Nature. 2021 Nov 24.
doi: 10.1038/s41586-021-04135-5. Online ahead of print.
肺がんは最も悪性度の高い腫瘍のひとつである。ドライバー遺伝子異常に基づく分子標的療法は、非小細胞肺がん患者における治療アウトカムを本質的に改善した。しかし一方で、こうしたドライバー遺伝子異常は、非小細胞肺がんの中でも最も多い原発性肺腺がん患者のうち25-40%では見つからない。
今回、多施設共同遺伝子スクリーニング基盤研究であるLC-SCRUM-Asiaにおいて行ったRNAトランスクリプトーム解析から、CLIP1とLTKの新規融合遺伝子を同定したので報告する。CLIP1-LTK融合遺伝子の非小細胞肺がん全体における発生頻度は0.4%で、他のドライバー遺伝子異常と相互排他的な関係にある。CLIP1-LTK融合遺伝子産物のリン酸化活性は恒常的で、がん化を引き起こす能力を持つ。CLIP1-LTK融合遺伝子を導入したBa/F3細胞をALK阻害薬であるロルラチニブで処理したところ、CLIP1-LTK産物のリン酸化活性が阻害され、浸潤増殖が抑制されるとともに細胞死が誘導された。CLIP1-LTk融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん患者1人に対してロルラチニブを投与したところ、良好な臨床効果が得られた。我々の知る限り、上皮性悪性腫瘍におけるLTK異常について記載したのは本報告が初である。