選択的RET阻害薬のセルペルカチニブが2021/12/13に上市された。
出現頻度は肺腺がんのわずか2%に過ぎない。
しかし、義父のようにその2%にあたった患者にとっては、福音だ。
製薬会社から提供されたパンフレットに沿って、RETそのものについて、また薬事承認の裏付けとなったLIBRETTO-001試験の概要と結果に触れる。
正常なRET遺伝子に由来する蛋白質はEGFRなどと同じく受容体型チロシンキナーゼで、リガンドが結合すると二量体を形成し、細胞内シグナル伝達系を介して細胞増殖を促すとされる。
腎臓や腸管神経系の派生や神経組織、神経内分泌組織、造血系などの組織の維持に関わる働きを持つ、とのこと。
一方、RET遺伝子の複製過程で偶然発生したRET融合遺伝子は、リガンドが結合せずとも二量体を形成して細胞質内に局在し、恒常的に細胞増殖を促し、細胞をがん化へ導く。
セルペルカチニブ(商品名レットヴィモ)は、RET蛋白質のアデノシン三リン酸(ATP)結合部位に、ATPと競合的に結合することで、細胞内シグナル伝達、細胞増殖刺激を抑制する。
国立がん研究センターで肺腺がん患者319人のドライバー遺伝子変異を調べたところ、その1.9%にRET融合遺伝子を認めた。
過去の論文から6899人の肺がん患者データを抽出して調査したところ、①女性、②60歳未満、③非喫煙者では統計学的有意にRET融合遺伝子陽性肺がんの患者が多かった。
RET融合遺伝子陽性肺がんは、EGFR、ALK、ROS1、BRAF各遺伝子異常と同じく、オンコマインDxTT(デラックスターゲットテスト)マルチCDx(コンパニオン診断)システムで検出できる。
LIBRETTO-001試験は、RET融合遺伝子陽性固形がんの患者を対象とした臨床試験で、推奨用量設定のための安全性確認試験である第I相部分と、主要評価項目を奏効割合とした有効性確認試験である第II相部分に分かれていた。
今回薬事承認の根拠となったのは、第I相部分および第II相部分のコホート1、コホート2における非小細胞肺がん患者のデータだ。
コホート2の未治療群では、総数49人中日本人はわずか4人しか含まれていない。
一方、コホート1の既治療群では、総数210人中日本人は44人と20%を超えるプレゼンスを示している。
既治療群において、95%は化学療法の、60%は抗PD-1 / PD-L1薬の治療歴がある。
第I相部分、第II相部分の統合解析では、主要評価項目の奏効割合は、未治療群では70.5%(95%信頼区間54.8-83.2)、既治療群では56.9%(95%信頼区間49.8-63.8)だった。
推奨用量に則った治療を受けた第II相部分の患者だけを解析すると、主要評価項目の奏効割合は、未治療群では71.4%(95%信頼区間53.7-85.4)、既治療群では55.2%(95%信頼区間46.4-63.8)だった。
最良変化率のwaterfall plotを見ると、未治療例、既治療例ともに、ほぼすべての患者で腫瘍縮小効果が得られている。
無増悪生存期間中央値は、未治療群では未到達(95%信頼区間9.2-未到達)、既治療群では20.67ヶ月(95%信頼区間19.3-未到達)だった。
全生存期間中央値は、未治療群では未到達(95%信頼区間算定不能)、既治療群でも未到達(95%信頼区間25.7-未到達)だった。
中枢神経系の測定可能病変があった患者で、治療によるその奏効割合は82%で、病勢進行は1人も認めなかった。
本試験全体(非小細胞肺がん以外の固形癌患者も含む)としての有害事象は高頻度に認め、肝障害、QT延長、高血圧が多かった。
特徴的な有害事象として過敏症関連事象が取り上げられた。
発熱、発疹、肝機能障害、血小板減少が現れたら要注意で、まずは休薬とプレドニゾロン0.5-1.0mg/kg程度の内服治療。
間質性肺炎の出現頻度は1.2%とわずかで、Grade 3以上の重篤なものはなかった。
発現頻度が10%を超える有害事象一覧。
発現頻度が20%を超える有害事象一覧。
日本人において、発現頻度が10%を超える有害事象一覧。
日本人において、発現頻度が20%を超える有害事象一覧。
肝機能障害がかなりの高頻度で、定期的な血液検査が欠かせない。
免疫チェックポイント阻害薬の治療歴があると、過敏症発現頻度が10%強まで高まる。