免疫チェックポイント阻害薬とドライバー遺伝子変異陽性肺がんとの関連性。
・免疫チェックポイント阻害薬使用後にチロシンキナーゼ阻害薬を使うと、薬剤性肺障害のリスクが高い
・免疫チェックポイント阻害薬単独では有効性が低い
・チロシンキナーゼ阻害薬を使い切った後にプラチナ併用化学療法+免疫チェックポイント阻害薬併用を行うと有効かもしれない
・KRAS遺伝子変異陽性なら、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できる
といったところだろうか。
ドライバー遺伝子変異陽性肺がんにおいても、III期であれば化学放射線療法後にデュルバルマブを地固め投与するPACIFICレジメンが標準と考えられるが、今回の報告はその有効性を後方視的に検討したものである。
対象患者数が極めて少ない(KRAS変異以外はすべて一桁)とはいえ、上記の原則を裏付けるような結果であり、個人的に興味深かったので記事にした。
今後の臨床試験や実地臨床にどのように活かすべきか。
さらに、免疫チェックポイント阻害薬の恩恵は喫煙者の方が受けやすいという、非喫煙者としては全く受け入れがたい事実も再確認された。
それも、無増悪生存期間中央値にして1年以上の有意差を以て、である。
免疫チェックポイント阻害薬を取り扱う製薬会社にたばこ会社が資本参加したら、と考えると、本当に暗澹たる気分になる。
Durvalumab consolidation in patients with stage III non-resecable NSCLC with driver genomic alterations
M. Riudavets Melia et al., ESMO Congress 2021 Abst.#1172MO
Annals of Oncology (2021) 32 (suppl_5): S939-S948.
背景:
デュルバルマブはIII期切除不能非小細胞肺がんに対する化学放射線療法後の地固め標準治療である。ドライバー遺伝子異常を伴う非小細胞肺がん患者における本治療の有効性はあまりよく分かっていない。今回はこの件について調査することを目的とした。
方法:
化学放射線療法後にデュルバルマブ投与を受けたIII期切除不能非小細胞肺がん患者について、欧州および米国の25施設で、2020年04月15日から2020年10月20日までに臨床データおよび生物学的データを集積し、後方視的検討を行った。ドライバー遺伝子異常は、EGFR、BRAF、KRAS遺伝子変異とALK、ROS1融合遺伝子を対象とした。画像診断上の奏効割合はRECIST v1.1基準、あるいは担当医の評価基準に基づいて評価した。ドライバー遺伝子異常ごとに、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を評価した。
結果:
323人の調査対象患者のうち、43人が1種類のドライバー遺伝子異常を伴っていた。KRAS遺伝子変異26人(うち8人がG12C変異)、EGFR遺伝子変異8人(うち6人がエクソン19欠失もしくはエクソン21点突然変異)、BRAF遺伝子変異5人(うち4人がV600E変異)、ALK融合遺伝子4人という内訳だった。年齢中央値は66歳(39-84)、性別比は1:1で、98%の患者がPS≦1で、19%は非喫煙者だった。88%は腺がんだった。PD-L1発現は85%の患者で陽性だった(4人はデータ確認不能だった)。調査対象患者全体における無増悪生存期間中央値は17.5ヶ月(95%信頼区間13.2-24.9)、全生存期間中央値は47ヶ月(95%信頼区間47-未到達)だった。ドライバー遺伝子変異を伴う患者(dGA群)と伴わない患者(non-dGA群)で比較したところ、無増悪生存期間中央値はdGA群で14.9ヶ月(95%信頼区間8.1-未到達)、non-dGA群で18ヶ月(95%信頼区間13.4-28.3)と統計学的有意差を認めなかった(p=1.0)。全生存期間に関するデータは解析時点では不足しており算出できなかった。ドライバー遺伝子変異ごとの解析結果は図表の通りで、KRAS遺伝子変異を有する患者以外では無増悪生存期間中央値は9ヶ月以下に留まった。
dGA群において、PD-L1発現状態と全生存期間、無増悪生存期間の間に相関関係はなかった。一方、無増悪生存期間と喫煙歴には正の相関があり、中央値は喫煙者で19.2ヶ月(95%信頼区間11.3-未到達)、非喫煙者で5.8ヶ月(95%信頼区間3.9-未到達)だった。
結論:
ドライバー遺伝子異常を伴うIII期切除不能非小細胞肺がん患者に対する化学放射線療法後のデュルバルマブによる地固め療法は、KRAS遺伝子変異陽性患者を除いては限定的な有効性に留まった。より規模の大きな研究で検証する必要がある。