ALK肺がんの領域でなにか新しい話題がないかと思ってい調べたところ、今回紹介する総説に遭遇した。
これまで文献を読んだときは、漫然と要約を書き下していたが、総説だとそうはいかない。
迷った挙句、将来読み返したときに参考になるように、自分なりの要点を3点書き残す。
EGFR肺がんのオシメルチニブ耐性でも問題になっている重複遺伝子変異の概念、その克服を目指す第4世代ALK阻害薬の登場がトピックであり、ALK肺がんの研究開発の奥行を感じさせてくれる総説だった。
Will the clinical development of 4th-generation "double mutant active" ALK TKIs (TPX-0131 and NVL-655) change the future treatment paradigm of ALK+ NSCLC?
Sai-Hong Ignatius Ou et al., Transl Oncol. 2021 Nov;14(11):101191.
doi: 10.1016/j.tranon.2021.101191. Epub 2021 Aug 5.
1)ALK肺がんに対する一次治療としてのALK阻害薬臨床試験のまとめ
ALK肺がんを間野先生の研究グループが発見したのち、当初はマルチキナーゼ阻害薬であるクリゾチニブが使われ始めた。
ALK肺がんの領域におけるクリゾチニブは、もはや「古典」といってもいい治療である。
当初はプラチナ併用化学療法に対し、クリゾチニブが有意に無増悪生存期間延長効果を示し、それもハザード比0.40-0.45程度と圧倒的な差を以てクリゾチニブに軍配が上がっており、ALK肺がんにはALK阻害薬、という今日では当たり前の治療概念が確立された。
以後はクリゾチニブが標準治療、比較対象として広く受け入れられるようになり、いつの間にか他のALK阻害薬の引き立て役になってしまった。
セリチニブはともかく、アレクチニブ、ブリガチニブ、ensartinib、ロルラチニブ、いずれも一次治療として、クリゾチニブと比較して無増悪生存期間を延長し、それもハザード比0.28-0.51と圧倒的な差を以てクリゾチニブ以外のALK阻害薬に軍配が上がっている。
驕れるものは久しからず、とは言わないが、一次治療としてのクリゾチニブの役割は終わった。
そして、ALK肺がんの特徴である高頻度の中枢神経系転移に対する抗腫瘍活性に優れ、かつALK融合遺伝子産物に対する選択的阻害活性がより強いクリゾチニブ以外のALK阻害薬(主にセリチニブ、アレクチニブ)が一次治療として積極的に使用されるようになる。
2)ALK阻害薬の使用法の変遷と、耐性変異様式の移り変わり
ALK異常を含め、複数の遺伝子異常に有効なマルチキナーゼ阻害薬として働くクリゾチニブを使用することにより、クリゾチニブにより誘導される耐性変異は多岐にわたり、solvent front と呼ばれる薬剤結合部位の入り口の耐性変異はその中の一部にしか過ぎなかったが、クリゾチニブ以外のALK選択性の強いALK阻害薬により誘導される耐性変異は、よりsolvent frontへの耐性変異に収斂されていくことになる。
なかでも最も厄介な、それでいて出現頻度の高い耐性変異がG1202R変異であるが、より中枢神経系への移行活性が高く、かつG1202R変異への阻害活性を強めるべく開発されたのがロルラチニブだった。
こうした薬剤特性と治療開発の経緯から、クリゾチニブを第1世代、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、ensartinibを第2世代、ロルラチニブを第3世代のALK阻害薬と称する分類法が一般的となっていく。
そして近年では、複数の耐性変異が1本のALK肺がん染色体アリルに共存するがために、上記の既存ALK阻害薬が効かない耐性例が見られるようになった。
こうした「重複耐性変異」を有するALK肺がんは、アレクチニブでの治療後(アレクチニブの前治療の如何は問わない)では24%の出現頻度で、第2世代ALK阻害薬を用いた後のロルラチニブでの治療後では48%と倍増していた。
3)重複耐性変異に対する第4世代ALK阻害薬の登場
第2世代、第3世代のALK阻害薬は、二次治療以降で使用すると一般に無増悪生存期間延長効果が薄まってしまう。
例えば、ALTA-1L試験結果から、ブリガチニブを一次治療で使用すると2年程度の無増悪生存期間を見込めるが、アレクチニブ耐性後にブリガチニブを使用すると、無増悪生存期間は4.4-7.3ヶ月程度まで短縮する。
同様に、CROWN試験結果から、ロルラチニブを一次治療で使用すると2年半程度の無増悪生存期間を見込めるが、第2世代ALK阻害薬1種類耐性後にロルラチニブを使用すると6.9ヶ月、2種類以上のALK阻害薬耐性後にロルラチニブを使用すると5.5ヶ月まで短縮する。
こうした状況を打破するために開発されたのが、TPX-0131やNVL-655といった第4世代のALK阻害薬である。
まだ前臨床の段階ではあるが、TPX-0131、NVL-655いずれも、重複耐性変異に対する阻害活性を有することが確認されている。
TPX-0131に至っては、一部の三重重複耐性変異にも阻害活性を有するようである。
一方、G1202R / G1269AやG1202R / G1269A / L1204VのようなTPX-0131でも歯が立たない重複耐性変異も確認されている。
今後は、第4世代ALK阻害薬の効果と安全性を検証する臨床試験が、既存治療耐性化後のALK肺がん患者、あるいは未治療ALK肺がん患者を対象として計画されていくだろう。
また、その結果を受けて、第○○世代といったあいまいな分類ではなく、それぞれの薬理特性に見合ったALK阻害薬分類に切り替わっていくだろう。
なお、ALK阻害薬の耐性化機構については、こちらのリンクがとても参考になるので書き残しておく。
・ALKキナーゼ・ROS1キナーゼ融合遺伝子陽性肺がんの、治療薬への耐性化機構と克服薬を発見することに成功
→
https://www.jfcr.or.jp/chemotherapy/pickup/backnumber_003.html