企業が関わる講演会・セミナーから距離を置くようになってから、随分経った。
いまだに参加依頼、講演依頼ともにお話を頂くのは光栄なことだ。
ご依頼くださる企業はもとより、座長の先生にも申し訳ないと思いながらも、相変わらず断り続けている。
会場費やら、講演料やら、旅費・交通費やら、果ては企業の方々の残業代まで考えると、結局は薬価に反映されるわけで、どうも気が進まない。
学会発表などの冒頭、講演者が利益相反のスライドで多数の企業との関わりを公表しているところを見ると、そのお金、全部患者団体に寄付してはいかがですかと言いたくなってしまう。
免疫チェックポイント阻害薬が肺がんの実地臨床に導入されてからというもの、経済的な理由で治療を中断する患者さんを見かけることが、本当に多くなった。
閑話休題。
最近は、企業主催の講演会がweb上で行われることが多くなった。
これも一定の費用が発生しているのは間違いないが、一般の講演会やセミナーよりは費用を抑えられているのではないかと、都合がつけば聴講している。
今日はアストラゼネカ社主催の、表題の講演。
主催者がオシメルチニブの販売元だから、それなりに割り引いて聴講しなければならない。
このテーマが日本肺癌学会で発表された段階の記事は以下を参照。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e967135.html
今日は、聴講していていくつか目にとまった内容を取り上げて、感想を記しておく。
全生存期間解析に関する生存曲線の一覧。
こうして並べてみると、非アジア人>全体>アジア人>日本人という順番で、オシメルチニブが優れていそうな印象。
日本人に関するサブグループ解析は、そもそも試験デザインの時点では予定すらされていなかった後解析でしかない。
・・・と演者の先生は強調されていたが、それで片付けてしまうには、あまりにも生存曲線の性向が一貫しすぎていはしないか?
オシメルチニブとゲフィチニブ、エルロチニブの薬価の差を考えれば、この結果でオシメルチニブを使うのは、納税者に申し訳ないのでは?
各治療群で、毒性でプロトコール治療中止となった場合、病勢進行でプロトコール治療中止となった場合の次治療の内訳。
オシメルチニブ群では、毒性中止となった場合、他のEGFR阻害薬に切り替える患者と殺細胞性抗腫瘍薬に切り替える患者がほぼ半々。
ゲフィチニブ/エルロチニブ群では、毒性中止となった場合、殺細胞性抗腫瘍薬に切り替える患者は皆無で、(おそらくT790Mが判明した)オシメルチニブに切り替えた患者が1人だけいて、その他は全て他のEGFR阻害薬に切り替えられていた。
病勢進行で次治療に移行する場合も、両群間で違いがある。
オシメルチニブ群で殺細胞性抗腫瘍薬を使う患者が多いことは容易に予想できるが、ゲフィチニブ/エルロチニブ群でオシメルチニブに切り替えた患者が半数程度いるのは、結構多いな、と感じた。
当然T790Mが検出されていないとオシメルチニブは使えないわけで、実地臨床で20-25%程度にしかT790Mが陽性にならない感触からすると、46%は結構多いな、と感じる。
また、この図表には示されていないが、オシメルチニブ群の22%、ゲフィチニブ/エルロチニブ群の24%は次治療を受けていないことも知っておかなければならない。
オシメルチニブ耐性後の治療戦略のお話。
過去の関連記事は以下を参照。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e808803.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e884383.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e954089.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e970829.html
第1世代、第2世代EGFR阻害薬使用後のT790M出現率に比べると、EGFRそのものの構造改変をきたすC797Sのような変化は、必ずしもオシメルチニブ耐性化のメインストリームではなさそうだ。
また、これは直感でしかないが、EGFRやMETのより下流のシグナル伝達系を抑え込むのは、あまりうまくいかなさそうな気がする。
プラチナ併用化学療法とオシメルチニブの併用が有効かどうかを検証する第III相試験、FLAURA2。
NEJ009やNoronha trialを踏まえれば、当然出てくるコンセプトだ。
多分有望な結果が出るだろうが、個人的に興味があるのは、CBDCA+PEMと組み合わせたとき、ゲフィチニブとオシメルチニブの間に何らかの差が出るかどうかである。