RET融合遺伝子陽性肺がんに対するselpercatinibの第III相試験:LIBRETTO-431試験の概要

tak

2021年01月30日 20:39

 2021/01/28-2021/01/31の日程で、世界肺癌学会世界肺癌学会議が開催されている。
 https://wclc2020.iaslc.org/

 RET肺がんに対するselpercatinibの第III相試験、LIBRETTO-431試験について、最近以下の記事で触れた。
 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e984811.html

 今回の世界肺癌会議で、本試験の概要に関するポスター発表が行われているようなので、概要を以下に記載する。
 LIBRETTO-001試験についておさらいするのにもちょうどいい。

 試験デザイン上、コントロール群に割り付けられた場合にはペンブロリズマブ併用を希望するかどうかを参加者は問われるようだが、その返答が割付調整因子に組み込まれている。
 KEYNOTE-189試験の結果を踏まえると、適切な説明が治験担当医からなされた場合、ペンブロリズマブ併用を希望しない患者がいるとは考えにくい。
 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e963871.html

 割付調整因子である以上は、ペンブロリズマブを希望する患者が一定数に到達した場合、その後に希望する患者は実質的にペンブロリズマブを希望できなくなる(希望しても既に枠が埋まっていて参加できない)という状況になってしまう可能性がある。
 既にそうなっているのかもしれない。
 なるべくそうならないように、治験担当医が説明内容を歪めるかもしれない。
 倫理的にどうかと首をかしげる設定であり、将来プロトコール改訂を余儀なくされるような気がしてならない。

 そしてもうひとつ。
 本試験には、LIBRETTO-001試験結果に基づいて、既にRET肺がんに対するselpercatinibの使用を承認している米国は参加していない。
 希少肺癌に対する治療を第II相試験の段階で承認して、実診療でselpercatinibの実力を測るのが米国流。
 希少肺癌に対する治療を全世界規模の第III相試験を行って、結果を見極めてからselpercatinibを実臨床に持ち込むのがその他の国々。
 我が国を含めてその他の国々では、地方に住む一般の患者がselpercatinibを使用できるようになるまでには相当の時間がかかるだろう。
 肺がん原理主義者としてはその他の国々の方が保守本流だと思うのだが、RET肺がん患者の家族としては科学的妥当性なんて後付けでいいから、米国で治療を受けさせられたらと切に思う。



LIBRETTO-431: Selpercatinib in Treatment-Naïve Patients with RET Fusion-Positive Non-Small Cell Lung Cancer (NSCLC).
Koichi Goto et al., WCLC 2020 #FP14.05

背景:
 Selpercatinib (LOXO-292) は高い選択性と潜在活性を有するRET阻害薬である。第I / II相のLIBRETTO-001試験において、selpercatinibはプラチナ併用化学療法治療歴のあるRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん患者(総患者数105人)において64%(95%信頼区間は54-73%)、治療歴のないRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん患者(総患者数39人)において85%(95%信頼区間は70-94%)の奏効割合を示した。治療歴のない患者においては未だ定かではないが、プラチナ併用化学療法治療歴のある患者における奏効持続期間中央値は18ヶ月(95%信頼区間は12ヶ月-未到達)、無増悪生存期間中央値は17.5ヶ月(95%信頼区間は12ヶ月-未到達)、中枢神経系奏効割合は91%(11人中10人で奏効、95%信頼区間は59-100%)だった。主な有害事象は口渇(39%)、下痢(37%)、高血圧(35%)、倦怠感(35%)だった。ほとんどの有害事象はGrade 1もしくは2と軽微な範囲にとどまっていた。主な臨床検査値異常は、ALT上昇が51%、AST上昇が45%だった。全体の5%の患者が、有害事象のために治療を中止した。
 LIBRETTO-431試験は国際オープンラベルランダム化第3相臨床試験である。未治療の局所進行もしくは進行RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん患者を対象として、selpercatinib単剤療法とプラチナ製剤+ペメトレキセド±ペンブロリズマブ併用療法を比較する試験である。
 本試験に参加する患者は、A群(selpercatinib 160mgを1日2回内服、3週間サイクルで投与)とB群(ペメトレキセド500mg/㎡、点滴静注+プラチナ製剤(担当医判断で、カルボプラチン 5AUCもしくはシスプラチン75mg/㎡のいずれかを選択)を3週間隔で4コース点滴静注)に振り分けられる。B群では、担当医判断でペンブロリズマブ200mg点滴静注を最大35コースまで使用可能とされている。ペメトレキセドとペンブロリズマブを維持療法として継続投与することも可能である。B群の患者が病勢進行に至った際、selpercatinibを次治療として使用することが認められている。プロトコール治療は、病勢進行が確認されるか、許容不能の毒性に見舞われるか、患者が治療中止を希望するか、あるいは患者が死亡するまで継続される。割付調整因子は地域(アジア地域 or それ以外の地域)、脳転移(あり or なし)、もしB群に割り付けられた場合にペンブロリズマブ併用を希望するか(する or しない)とした。RET融合遺伝子を有するか否かは、腫瘍組織検体(PCRもしくは次世代シーケンサー分析)あるいは血液検体(次世代シーケンサー分析)を用いて検索された。主な適格条件は、①18歳以上、②過去に肺がん治療歴がない、③IIIb期もしくはIIIC期で外科治療や放射線治療の適応がない、あるいはIV期の非扁平上皮非小細胞肺癌である、④RECIST 1.1準拠の測定可能病変がある、⑤ECOG-パフォーマンスステータス0-2である、とした。主な除外条件は、①既知の他のドライバー遺伝子変異を有する、②症状を伴う中枢神経系転移がある、とした。治療効果判定は病勢進行に至るか、新たな抗腫瘍治療を開始するか、患者が死亡するか、臨床試験が終了するかまで継続することとした。主要評価項目は、B群に割り付けられた場合にペンブロリズマブ併用を希望した患者群における無増悪生存期間(委員会判定による)と、全患者群における無増悪生存期間(委員会判定による)とした。副次評価項目は無増悪生存期間(担当医判定による)、奏効割合、奏効持続期間、頭蓋内病変に関する奏効割合、頭蓋内病変に関する奏効持続期間、全生存期間、呼吸器症状が悪化するまでの期間、次治療開始後に病勢進行に至るまでの期間、RET融合遺伝子の状態、安全性とした。本試験は2020年3月に開始され、現在も進行中である。

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