アムルビシンと心毒性

tak

2021年01月06日 12:36

 正直言って、油断していた。

 再燃後の小細胞肺がんに対して、二次治療としてアムルビシン単剤療法をしていた患者。
 ④コース終了後の効果は病勢安定の範囲内、骨髄抑制はそれなりに出たがどうにかマネジメント可能で、いけるところまで継続しようと考えていた。

 ⑤コース目に入る直前の診察で患者から、
 「最近、ちょっと歩いたり話したりするだけでも息切れを感じることが多くなった」
という訴えがあった。
 右肺中葉がほぼ無気肺に陥っていたのでそのせいかと高を括っていたのだが、すこし違和感を感じる。
 息切れの症状は確かにあり、会話時の言葉はとぎれとぎれだが、それにしては酸素飽和度がよく、90%台後半を維持している。
 それよりも気になるのは、脈拍。
 安静時は正常範囲内だが、ちょっと歩いただけで一気に120-130/分まで脈拍が増える。

 心電図を調べたところ、もともとは正常所見だったのに、I誘導、V2-6誘導でST-T波の陰転化を認めた。
 心エコーでは、左室駆出率は50%未満まで低下、左室収縮は全般にやや低下していた。
 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)を思わせるような臨床所見は指摘しがたく、アムルビシンによる心筋障害と断定し、アムルビシン投与は見合わせた。

 改めて添付文書を見直してみると、アムルビシンによる心毒性の頻度は結構高い。
 https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00049228
 心電図以上の出現率は5%以上、心機能低下や心不全症状出現も0.5-5%程度と無視できない。
 
 添付文書よりも詳しいインタビューフォームも参照してみた。
http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=4235406D1020
 臨床試験のデータからも、3-4%程度は心不全症状を伴う心毒性が出ると見て良さそうだ。

 通常の診察では見つけきれなかった。
 患者の訴えと、習慣になっている入院時心電図検査に救われた。
 
 できる限り心機能の是正を図り、三次治療につなげたい。
 
 

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