肺がん診療におけるステロイド薬の使い方

tak

2021年07月15日 21:40

 少し前と比べると、肺がん診療におけるステロイド薬の使い方、考え方はとても複雑になった。
 例を挙げて考えてみたい。

1)化学療法施行時の制吐薬として
 デキサメサゾンが一般的に用いられるが、各治療の催吐性リスクに応じて、他の制吐薬とともに使用量が変わる。
 とはいえ、この用途ではかなり明確にガイドラインに定められており、少なくとも初回治療時に悩むことはあまりない。
 さらに言えば、初回治療時に良好に嘔気が制御されたら、その後用量調整をすることはほぼないだろう。

2)悪液質に対する支持療法として
 最近になってアナモレリンが使えるようになったが、悪液質対策としてはステロイド薬の方が遥かに歴史が長く、使用している医師は多いだろう。
 使用するステロイド薬、使用する量は医師によってさまざまである。
 
3)がん性リンパ管症に対する支持療法として
 呼吸器領域では、がん性リンパ管症に対する支持療法としてステロイド薬がしばしば用いられる。
 患者体重1kg当たり0.5mgのプレドニゾロンを使用するのが一般的ではないだろうか。

4)放射線肺臓炎に対する治療として
 感覚として、胸部放射線治療後1-3ヶ月程度で放射線肺臓炎が顕在化することが多いように感じる。
 放射線肺臓炎はそもそも長く続く病態なので、患者体重1kg当たり0.5mgのプレドニゾロンを開始し、病状に合わせて漸減しながら月単位で継続することが多い。
 厄介なのは、放射線肺臓炎がまだ落ち着いていないうちに肺がんの病勢が悪化したときだ。
 一般に10mg/日以上のプレドニゾロンを投与しながらがん薬物療法を行うのは困難なので、どこかで折り合いをつけなければならない。
 しかし、一昔前に比べれば、前後対向二門→off cord planningで計60Gyという古典的な照射方法から、定位照射、サイバーナイフ照射、重粒子線と照射法が多様になり、少なくとも定位照射やサイバーナイフでは放射線肺臓炎が軽微に抑えられ、治療の必要がないか、あるいはプレドニゾロンを使ってもより少量、より短期間に抑えられるようになった。
 また、これも傾向として、間質性肺炎の治療時のようにじっくり時間をかけて漸減するよりも、比較的短期間で減量、中止を目指し、再燃したら一定量からまた再開、という使い方をされることが増えたように感じる。

5)化学療法による薬剤性肺障害に対して
 肺がんのみならず、多領域のがん種の化学療法においても、薬剤性肺障害はしばしば経験する。
 薬剤性肺障害が発生したら被疑薬は中止、状況に応じてステロイドを投与し、効果が出るように天を仰ぐ。
 深刻な場合は、メチルプレドニゾロンパルス療法まで行う。

6)分子標的薬による薬剤性肺障害に対して
 お手軽、安全、安心をモットーに、2002年夏(もう20年も経つのか!)ゲフィチニブを嚆矢としてデビューした分子標的薬だが、上市されて間もなく、我々は薬剤性肺障害の脅威を知ることになった。
 ざっと発症率5%、死亡率3%という特徴があり、我が国でも訴訟問題に発展し、海外では薬事承認取り消しにまで追い込まれた。
 結局治療は被疑薬の中止とステロイド投与しかないというのが実情で、これは今も昔も変わらない。
 
7)免疫チェックポイント阻害薬による各種有害事象に対して 
 近年大きく変わったのはここだろう。
 甲状腺機能異常やインシュリン依存性糖尿病といった、生理活性物質の制御もしくは補充で対応するしかないものはともかくとして、多くの免疫関連有害事象にはまずステロイドが使用される。
 長く効き続ける免疫チェックポイント阻害薬の性質上、免疫関連有害事象も放射線肺臓炎と同様長期にわたり続くことが多く、いったん始めたステロイドをどのくらいの期間で中止に持っていくかというのは、なかなか難しい命題である。

 1)は決まりきった使い方があるし、2)、3)は言ってしまえば患者が天寿を全うするまでひたすら一定量を使い続けるだけなので、そんなに困らない。
 もっとも、3)ならば状況が許せばステロイドより先にがん薬物療法を行い、効果に期待するだろう。
 問題は4)以下である。
 ステロイド薬を使うにあたり、次なるステップのがん薬物療法に適確につなげるために、出口戦略を考えなければならない。
 ステロイド薬を早く減らし過ぎればそれぞれの有害事象がぶり返すし、かといってダラダラとステロイド薬を続ければ次治療のタイミングを失ってしまう恐れがある。
 



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