日本人の高齢進展型小細胞肺がんの標準治療

tak

2021年07月22日 21:05

 肺がんの化学療法に関するこうした古典的な臨床試験は、もう目にしなくなるかもしれない。
 そして、イリノテカンの出番がまたひとつ減ることになった。

 効果は同等、毒性の面ではカルボプラチン+エトポシド併用療法は骨髄抑制が、カルボプラチン+イリノテカン併用療法は下痢が問題となる。
 骨髄抑制に対しては投与量減量やG-CSFで対処可能だが、下痢のマネジメントには難渋する。
 使いやすさや免疫チェックポイント阻害薬との併用という点で、イリノテカンは明らかに劣後する。
 もはや、イリノテカンを積極的に使用する機会はもはやほとんどなくなったと言ってもいいだろう。



A randomized phase II/III study comparing carboplatin and irinotecan with carboplatin and etoposide for the treatment of elderly patients with extensive-disease small cell lung cancer (JCOG1201/TORG1528).

Tsuneo Shimokawa et al., 2021 ASCO Annual Meeting abst #8571

背景:
 カルボプラチン+エトポシド併用療法は、高齢者進展型肺小細胞癌に対する現在の標準治療である。今回は、日本人の高齢進展型肺小細胞癌患者を対象に、カルボプラチン+イリノテカン併用療法とカルボプラチン+エトポシド併用療法の有効性と安全性を比較検討する無作為化第II / III相試験を行った。

方法:
 患者適格条件は以下の通りとした。
・組織診、あるいは細胞診で小細胞がんと診断されている
・化学療法の治療歴がない
・PS 0-2
・71歳以上
 カルボプラチン+エトポシド併用療法(CE)群では、カルボプラチン5AUCを1日目、エトポシド80mg/㎡を1,2,3日目に投与し、3週間ごとに4コース繰り返した。カルボプラチン+イリノテカン併用療法(CI)群では、カルボプラチン4AUCを1日目、イリノテカン50mg/㎡を1日目,8日目に投与し、3週間ごとに4コース繰り返した。第II相部分では、主要評価項目はCI群の奏効割合、副次評価項目は有害事象とした。第III相部分では、主要評価項目は全生存期間、副次評価項目は無増悪生存期間、奏効割合、有害事象、症状スコアとした。全生存期間について、CE群に対するCI群の優越性を検証する試験デザインとした。CI群における生存期間中央値がCE群より3.5ヶ月延長し、ハザード比が0.75となる(CE群 10.5ヶ月 vs CI群 14.0ヶ月)ように見積もった。片側検定でのαエラーを0.05、検出力を70%とするとこの仮説検証に必要なイベント数は227であるため、サンプルサイズを250人に設定した。症例集積期間は6.5年、追跡期間は1.5年とした。

結果:
 2013年12月から2019年6月にかけて、258人の患者を集積し、無作為割付した(CE群129人、CI群129人)。年齢中央値は75歳(71-90歳)だった。患者背景は両群とも同様だった。全生存期間中央値はCE群12.0ヶ月(95%信頼区間9.3-13.7)、CI群13.2ヶ月(95%信頼区間11.1-14.6)で、ハザード比は0.848(95%信頼区間0.650-1.105)、p=0.11で有意差を認めなかった。無増悪生存期間中央値はCE群4.4ヶ月(95%信頼区間4.0-4.7)、CI群4.9ヶ月(95%信頼区間4.5-5.2)で、ハザード比は0.851(95%信頼区間0.664-1.090)、p=0.21で有意差を認めなかった。奏効割合はCE群59.7%、CI群64.3%だった。症状スコアは、両群に有意差を認めなかった。grade 3以上の骨髄抑制はCE群で、消化管毒性はCI群でより高率に認められた。CE群で肺感染による1人、CI群で肺感染と敗血症による各1人の治療関連死を認めた。

結論:
 CI群とCE群の間に統計学的な差異は認めなかった。日本人高齢進展型小細胞肺がん患者における標準治療は、依然としてカルボプラチン+エトポシド併用療法である。 


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