ここ1年くらい、私事に追われてなかなか筆が進まない。
6月に入ったらようやく一区切りつきそうなので、たまった話題を書き留めておかないと失われてしまいそうと、焦っている。
・・・といいながら、今年のASCOの話題を眺めたりしている。
特定の遺伝子変異を標的とした分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬へと治療開発の主眼が移り、従来の抗がん薬はないがしろにされがちだ。
相談を受ける際も、
「分子標的薬の治療をいかに続けるか、どうやったら抗がん薬の使用を避けられるか」
といった内容が後を絶たない。
以前よりは重要性は下がったかもしれないが、それでも肺がん薬物療法全体像を計画するにあたり、抗がん薬の使用は避けて通れない。
私がこの分野の治療に関わり始めた1990年代後半からすれば、抗がん薬治療の分野の進歩は決して過小評価してはならない。
抗がん薬そのものの開発はもちろん、吐き気止めや好中球減少などの副作用対策の開発も飛躍的に進歩している。
以前は肺癌の抗がん薬治療と言えば、長期間入院して繰り返し抗がん薬の点滴を受けて、毎日吐き続けて、いつしか髪は抜け落ちて、廃人のようになって自宅へ帰って最期の時を待つ、という代物だった(少なくとも研修医の目にはそのように映った)。
今では外来化学療法が当たり前になり、治療を受けながら仕事をしている人は全く珍しくなくなった。
今回のASCO2019で発表される予定の本臨床試験は我が国発のもので、公的な色彩の強い東のJCOG、企業と連携して自由主義的な西のWJOGという臨床試験グループが協力し、高齢者進行非扁平上皮非小細胞肺癌の治療においてカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法の意義を明確に示したものだ。
過去、同様の対象患者においてプラチナ併用化学療法の有効性が否定されているだけに、それをJCOG / WJOG自らが覆す今回の発表はとても興味深い。
有効性データ、毒性データとともに、高齢者に対する医療費をどこまで許容するのか、という点でも、今後大いに議論してほしい。
そして、分子標的薬から抗がん薬への移行に踏み切れずに悩んでいる患者さんは、我が国発のこうした研究成果を踏まえて、是非その一歩を担当医とともに踏み出してほしい。
今の治療開発スピードならば、1年、いや半年長生きすれば、それまで出会えなかった治療に出会える可能性がある。
免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬が使えないから、効かなくなったからといって、諦めないで。
Randomized phase III study comparing carboplatin plus pemetrexed followed by pemetrexed versus docetaxel in elderly patients with advanced non-squamous non-small-cell lung cancer (JCOG1210/WJOG7813L).
2019 ASCO Annual Meeting
Abstract #9031
I Okamoto, H.Nokihara, K Yoh et al.
背景:
本臨床試験の目的は、高齢の進行非扁平上皮非小細胞肺癌患者におけるカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法とそれに引き続くペメトレキセド維持療法の有効性を検証することである。
方法:
化学療法未治療、ECOG-PS 0-1、75歳以上、進行期の非扁平上皮非小細胞肺癌患者を対象として、ドセタキセル60mg/㎡を3週間ごとに投与する群(DOC群)と、カルボプラチン5AUCとペメトレキセド500mg/㎡を3週間ごとに4コース投与し、その後にペメトレキセド500mg/㎡を3週ごとに病勢進行もしくは毒性により継続不能となるまで維持投与する群(CBDCA/PEM群)に無作為に割り付けた。主要評価項目は全生存期間とした。全生存期間のハザード比の95%信頼区間上限が1.154を下回れば、標準治療であるDOC群に対してCBDCA/PEM群の同等性が示されるという、非劣勢試験のデザインとした。
結果:
2013年8月から2017年2月まで、433人の患者を集積した。年齢中央値は78歳(75歳-88歳)で、DOC群に217人、CBDCA/PEM群に216人を割り付けた。全患者を対象に解析したところ、CBDCA/PEM群の非劣性が証明された(ハザード比0.85、95%信頼区間0.684-1.056、p