進行肺がんの診断がついても、積極的な治療を受けない患者さんは少なからず存在する。
積極的な治療を受けなかった患者さんのデータは、学会発表や論文ではあまり出てこない。
面白くないからだ。
しかし、臨床の現場で、治療をするかしないかの議論を患者さん、家族とする際には、こうしたデータはとても重要だ。
選択の目安となるからだ。
一般に、進行非小細胞肺癌の患者さんを無治療経過観察したときの生命予後は4-6ヶ月というのが相場だろう。
ところが、今回報告された大規模なレトロスペクティブ試験の結果はより深刻だ。
IV期の進行非小細胞肺癌患者さんを無治療経過観察した場合、生存期間中央値は2ヶ月と示されている。
・・・IV期の非小細胞肺癌患者を対象とする臨床試験では、「3ヶ月以上の生命予後が期待できる」という条件が付されることが多い。
そうすると、実地臨床におけるIV期の患者の半分以上は臨床試験の対象になりえないことになる。
治療手段が増えているにも関わらず、無治療経過観察となる患者は、少なくとも米国では増加しているらしい。
高齢化の影響なのか。
医療者が疲弊していて、手が回らないのか。
経済的に困窮していて、治療が受けられないのか。
Increasing Rates of No Treatment in Advanced-Stage Non-Small Cell Lung Cancer Patients: A Propensity-Matched Analysis
David EA et al., J Thorac Oncol 12(3), 437-445, 2017
・米国では、2,016年に非小細胞肺癌で死亡した患者は158,080人と見積もられている
・高齢、低学歴、健康保険未加入、進行期の患者ほど治療を受けていない、との仮説を立てて、National Cancer Data Baseを用いたレトロスペクティブ研究で検証した
・1,998年から2,012年にかけて、1,571,087人の非小細胞肺癌患者が抽出された
・他の癌を合併した人(392,129人)、人種が不明な人(31,869人)、臨床病期が不明な人(237,599人)を除外して、909,490人を調査対象とした
・そのうち21%(190,539人)は治療を受けていなかった(stage I: 13.5%, stage II: 15.4%, stage IIIA: 16.5%, stage IIIB: 22.2%, stage IV: 25.5%)
・どの臨床病期の患者においても、治療を受けなかった患者は高齢で、任意健康保険でなく公的健康保険に加入している傾向にあった
・14年間の調査期間中に、stage IもしくはIIで治療を受けなかった患者は、それぞれ0.66%(p