クライオプローブ

tak

2014年09月29日 21:14

 9月もあと少し。
 スペインでは欧州臨床腫瘍学会が行われており、盛り上がっているようです。
 私はといえば、腰椎圧迫骨折で入院したベトナム語しか通じないおばあちゃんと、四苦八苦しながらやりとりしています。

 あまりにも机の上が散らかっているので、当直の間に片付けようと思ったら、今春の気管支鏡学会で企業展示されていた資料を発掘しました。

 肺がん疑いの患者さんを内科で診断する際は、気管支鏡を使うのがふつうです。
 気管支鏡で肺がんの組織をとってくる際に、生検鉗子という道具を使います。
 細い針金の先に組織をつかんでちぎり取るための洗濯バサミがついている、といった感じです。
 参考までに、以下に消化器内視鏡用の生検鉗子の写真を示します。

 気管支鏡用の通常の生検鉗子でとれる組織の大きさは、せいぜい1mm程度、大きくても2mm程度です。
 小さい分、顕微鏡を使って診断する病理専門医の先生も大変です。
 なぜなら、病理専門医の先生の診断が根拠となって、患者さんが「がん」と診断されてしまうわけですから。
 診断が正しくても、万が一間違っていても、病理専門医の責任の大きさたるや、相当なものです。
 ですから、「こんなちっちゃな組織じゃ、診断なんてできないよ」というコメント、クレームがつくこともしばしばです。
 最近は、その小さな組織の、病理診断に使ったさらにその残りで、EGFRやALKを調べたり、研究目的で新しい遺伝子異常を探したりするわけです。
 「気管支鏡でより大きな腫瘍組織を採取する」という命題は、様々ながん遺伝子異常やそれに対応した薬物が引きも切らずに登場する現在では、いまや喫緊の課題です。

 そんな中、ここ数年話題に上っているのが、クライオプローブという新しい生検手段です。
 簡単に言えば、「鉗子で肺組織をちぎり取る」かわりに「クライオプローブで肺組織を凍結させてちぎり取る」のです。
 クライオプローブがなんといっても優れるのは、採取できる組織の大きさです。

V. Pajares, et al.
Diagnostic Yield Of Transbronchial Cryobiopsy In Diffuse Lung Disease: A Randomised Trial,
ATS 2013, May 20, 2013,Thematic Poster Session

 上記発表によると、組織標本の面積比にして5:1もの圧倒的な差が生まれています。
 診断率が高まる分、出血や気胸の合併症頻度もやや高いようですが、それでも魅力的な検査だと思います。

 医療機器会社の営業の方から頂いた事前情報で、「2014年の気管支鏡学会でクライオプローブの実物が試せるらしい」と聞いた私は、今春京都で開催された学会に、小躍りして乗り込みました。
 折しもSTAP細胞問題で渦中にあったバカンティ教授の特別講演は完全にすっぽかしてしまいましたが、クライオプローブはちゃんと見て、触れてきました。

 

 本体の外観はこんな感じです。
 医療用ガスのボンベがもれなく2本もくっついてきます。
 でも、移動式です。
 


 コントロールパネルはこんな感じです。
 シンプルな構成です。



 気管支内に挿入されるプローブそのものは、径1.9mmと2.4mmの2種類が準備されています。
 EBUSガイドシースとの併用もできそうです。



 学会上では、紙コップの中に水が張られ、いくつかのピーナッツが沈められています。
 「実際の組織生検をここでしていただくわけにはいきませんが、そのピーナッツで試してみてください」
とのこと。
 プローブを水に沈め、ピーナッツと接触させて、フットペダルを踏み込みます。
 そのまま静かにプローブを引き上げると・・・なるほど、ピーナッツがプローブとともに持ち上がってきました。
 このサイズの組織が取れたら、肺がんの組織診断や遺伝子診断はもちろんのこと、間質性肺炎の病理診断にも威力を発揮しそうです。
 一方で、このサイズの組織だとガイドシースの中は通りませんので、止血はやりにくそうですね。

 メーカーのパンフレットには、クライオプローブの3通りの使い方が示されていました。

 ①生検


 ②気管・気管支の狭窄解除


 ③腫瘍の壊死・除去(ステント内への腫瘍組織発育に対する凍結凝固壊死・除去を想定しているようです)


 内科的にも外科的にも用途はありそうで、我が国でも早く使えるようになるといいですね。
 

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