2018年06月09日

IMpower150試験:麺大盛り、肉野菜増し増し、背脂多めで!

 ASCO2018で発表されたIMpower150試験(Abst.#9002)、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル・・・。
 ちゃんと結果が出たんだけど、実臨床でやるかどうかと言われると悩んでしまう。
 こんなてんこ盛りの超高額医療、果たして本当に受け入れられるのか?
 ・・・でも、我が国なら受け入れられそうな気がするから、怖い。

 また、ECOG4599試験を踏まえて、historical armとしてBCPを選ぶのが王道だと言うのはわかる。
 でも、どうせ非扁平上皮癌に絞るなら、パクリタキセルをナブパクリタキセルにするとか、ペメトレキセドにするとかして欲しかった。
 本文中では触れられていないが、BCP群の約30%に対して、ABCP群の約40%が末梢神経障害に苦しんでいるというのはどうなのか。
 4.5ヶ月の生存期間延長効果と引き換えなら止むを得ないとするべきなのか。

 それから、本題とは外れるが、本試験に参加するような施設でも、EGFR遺伝子変異陽性の患者が分子標的薬を使えないことがある、というのは驚きだった。
 こうした国では、本試験に参加するより、もっと先にやるべきことがあるのでは?
 
 

Atezolizumab First-Line Treatment of Metastatic Nonsquamous NSCLC
Socinski et al., N Engl J Med 2018, online first
DOI: 10.1056/NEJMoa1716948

背景:
 VEGFによる免疫抑制機序をベバシズマブにより抑制することで、アテゾリズマブの殺腫瘍細胞活性が増強される可能性がある。今回のオープンラベル第3相試験では、未治療進行非小細胞非扁平上皮癌患者を対象として、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+化学療法が有効かどうかを検証した
方法:
 アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル群(ACP群)とベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル群(BCP群)とアテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル群(ABCP群)の3群に無作為に患者を割り付けた。治療は3週ごとに、4-6コース行い、その後はアテゾリズマブ、ベバシズマブ、あるいはこれら両方を維持治療として継続した。主要評価項目は無増悪生存期間(ドライバー遺伝子変異陰性患者群と、ドライバー遺伝子変異陰性患者群のうちeffector T 細胞遺伝子高発現群で個別に解析)およびドライバー遺伝子変異陰性患者群の全生存期間とした。まずABCP群とBCP群を比較し、その後にACP群とBCP群を比較することとした。
結果:
 ドライバー遺伝子変異陰性患者群では、356人がABCP群に、336人がBCP群に割り付けられた。無増悪生存期間中央値はABCP群で8.3ヶ月(95%信頼区間は7.7-9.8)、BCP群で6.8ヶ月(6.0-7.1)、ハザード比は0.62(95%信頼区間は0.52-0.74)、p値<0.001で、ABCP群で有意に延長していた。effector T 細胞遺伝子高発現群で同じ解析を行うと、ABCP群で11.3ヶ月、BCP群で6.8ヶ月、ハザード比は0.51(0.38-0.68)、p値<0.001)で、やはりABCP群で有意に延長していた。ドライバー遺伝子変異陽性患者を含めた全患者群で解析しても、無増悪生存期間はABCP群で有意に延長しており、PD-L1低発現群、effector T細胞遺伝子低発現群、肝転移を有する患者群といったサブグループ解析でも同様の結果だった。ドライバー遺伝子変異のない患者群での全生存期間解析では、ABCP群が統計学的に優位だった(中央値はABCP群で19.2ヶ月、BCP群で14.7ヶ月、ハザード比は0.78(0.64-0.96)、p値=0.02)。
本文より:
・米国における未治療進行非小細胞肺癌患者に対する標準治療オプションには以下のものが含まれる:
 プラチナ併用化学療法
 非扁平上皮癌なら:
  プラチナ併用化学療法+ベバシズマブ
  プラチナ併用化学療法+抗PD-L1抗体
 ドライバー遺伝子変異を有する患者なら対応する分子標的薬
 腫瘍細胞の50%以上がPD-L1を発現していれば抗PD-L1抗体単剤療法
・今回のIMpower150試験では、2つのコンセプトを検証した
 1)抗VEGF抗体は免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強するのか
 2)免疫チェックポイント阻害薬は化学療法との併用で有効に機能するのか
・化学療法に対するアテゾリズマブの上乗せ効果は、今回は供覧しない
・今回対象とした患者の適格条件は以下のとおり
 ●進行/再発の非小細胞・非扁平上皮肺癌患者
 ●RECIST 1.1基準における測定可能病変あり
 ●化学療法による治療歴なし
 ●ECOG-PS 0もしくは1
 ●バイオマーカー検索可能な腫瘍組織が保存されている
 ●ベバシズマブ使用可能条件を満たしている
 ●PD-L1発現状態は不問
 ●EGF遺伝子変異陽性/ALK融合遺伝子陽性患者では、対応する分子標的薬を既に使用しており、病勢進行もしくは忍容不能の有害事象により治療継続できなくなった後である
・除外基準は以下のとおり
 ●未治療の中枢神経系への転移を有する
 ●自己免疫性疾患を合併している
 ●本試験参加前6週間以内に何らかの免疫チェックポイント阻害薬投与を受けている
 ●本試験参加前2週間以内に何らかの免疫抑制治療を受けている
・術前もしくは術後化学療法を受けた患者は、これら治療から6ヶ月以上を経過していれば本試験参加可能とした
・ABCP群、ACP群、BCP群にはそれぞれ1:1:1の比率で無作為割り付けした
・割付調整因子は性別、肝転移の有無、PD-L1発現状態(使用抗体はVENTANA SP142)とした
・アテゾリズマブは1,200mg/回、ベバシズマブは15mg/kg/回、パクリタキセルは200mg/㎡/回(アジア人では175mg/㎡/回)、カルボプラチンは6AUC/回の投与量とした
・アテゾリズマブは、臨床的有用性があればbeyond PDでの治療も可とした
・BCP群における後治療でのアテゾリズマブ投与は禁じられた
・OAK試験において、effector T細胞遺伝子発現状態が、PD-L1発現状態よりも有用な治療効果予測因子として確認されたため、IMpower150試験では評価項目に組み入れられた
・統計学的設定はめんどくさいので端折ってしまうが、まずはABCP群とBCP群の比較を優先し、この比較で有意差がつけばACP群とBCP群の比較を行う、というのが基本だが、他にもこまごました規定が書かれていた。「無増悪生存期間の比較後に、αエラーを全生存期間解析のためにリサイクルする」とか、「ABCP群とBCP群の比較で有意差がつけば、余ったαエラーをACP群とBCP群の比較に使いまわす」とか、わかったようなわからないような手法が延々と書かれていた
・2015年3月から2016年12月までに、26カ国、240施設から1,202人の患者が集積された
・ACP群に402人、ABCP群に400人、BCP群に400人が割り付けられた
・ドライバー遺伝子変異のない患者群は1,040人(86.5%)を占め、ACP群に348人、ABCP群に356人、BCP群に336人が割り付けられた
・effector T細胞遺伝子発現状態はドライバー遺伝子変異のない患者群全体の95.6%で解析可能だった
・effector T細胞遺伝子高発現と分類された患者は上記のうち445人(42.8%)を占め、ACP群に161人、ABCP群に155人、BCP群に129人が割り付けられた
・ABCP群のうち35人(8.8%)とBCP群のうち45人(11.3%)がEGFR遺伝子変異を有しており、それぞれのうち3人、4人は分子標的薬治療歴がなかったが、それぞれの母国においてEGFR阻害薬の使用が認められていないことが主な理由だった
・ABCP群400人のうち13人(3.2%)とBCP群のうち21人(5.2%)はEML4-ALK融合遺伝子陽性だった
・アジア人はABCP群のうち56人(14.0%)、BCP群のうち46人(11.5%)を占めた
・TC3/IC3(≒PD-L1>50%)の患者がドライバー遺伝子変異を持たない患者群(ABCP群+BCP群800人のうち692人)のうち135人(20%)を占めていた
・TC0/IC0(≒PD-L1<1%)の患者がドライバー遺伝子変異を持たない患者群(ABCP群+BCP群800人のうち692人)のうち338人(49%)を占めていた
・2017年9月15日のデータカットオフの段階で、追跡期間の最小値は9.5ヶ月、中央値はABCP群で15.4ヶ月、BCP群で15.5ヶ月だった
・同じく、データカットオフの段階で、ドライバー遺伝子変異を持たない患者群692人のうち、517人(74.7%)が病勢進行に至るか、あるいは死亡していた
・ドライバー遺伝子変異を有する患者群で解析したところ、無増悪生存期間はABCP群で有意に延長していた(中央値はABCP群9.7ヶ月、BCP群6.1ヶ月、ハザード比は0.59(0.37-0.94)
・PD-L1発現状態別のハザード比は以下のとおりで、いずれもABCP群優位だった
  TC1/2/3は腫瘍細胞のうち1%以上がPD-L1陽性であることを示す
  IC1/2/3は腫瘍浸潤免疫細胞の1%以上がPD-L1陽性であることを示す
  TC2/3は腫瘍細胞の5%以上がPD-L1陽性であることを示す
  IC2/3は腫瘍浸潤免疫細胞の5%以上がPD-L1陽性であることを示す
  TC3は腫瘍細胞の50%以上がPD-L1陽性であることを示す
  IC3は腫瘍浸潤免疫細胞の10%以上がPD-L1陽性であることを示す
  TC0はPD-L1陽性の腫瘍細胞が1%未満であることを示す
  IC0はPD-L1陽性の腫瘍浸潤免疫細胞が1%未満であることを示す
 TC3/IC3:ハザード比0.39(0.25-0.60)
 TC1/2/3 or IC1/2/3:ハザード比0.50(0.39-0.64)
 TC1/2 or IC1/2:ハザード比0.56(0.41-0.77)
 TC0/1/2 or IC0/1/2:ハザード比0.68(0.56-0.82)
 TC0 and IC0:ハザード比0.77(0.61-0.99)
・肝転移を有する患者群でも、無増悪生存期間はABCP群で有意に延長していた(中央値はABCP群で7.4ヶ月、BCP群で4.9ヶ月、ハザード比0.42(0.26-0.66)
・KRAS遺伝子変異陽性群でも、無増悪生存期間はABCP群で有意に延長していた(中央値はABCP群で8.1ヶ月、BCP群で5.8ヶ月、ハザード比0.50(0.29-0.84)
・ACP群とBCP群で全生存期間解析を行ったところ、今回のデータカットオフ時点では結論が出なかったため、発表を見送った
・奏効割合は、ABCP群で63.5%(58.2-68.5)、BCP群で48.0%(42.5-53.6)で、完全奏効はそれぞれ3.7%(2.0-6.2)、1.2%(0.3-3.1)だった
・治療関連死はABCP群のうち11人(2.8%)、BCP群のうち9人(2.3%)に認められた
・ABCP群の治療関連死のうち5人は肺胞出血もしくは喀血が原因で、そのうち4人は大血管への腫瘍浸潤や空洞性病変といったベバシズマブ使用による肺出血リスクの高い患者で、本試験開始後比較的早い段階で発生したため、治験担当医に注意喚起を行った


同じカテゴリー(分子標的薬・抗体医薬)の記事画像
セルペルカチニブ、上市
セルペルカチニブ、2021年12月13日発売予定
第4世代ALK阻害薬・・・TPX-0131とNVL-655
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
中国人患者におけるRET阻害薬(Selpercatinib, Pralsetinib)の有効性
同じカテゴリー(分子標的薬・抗体医薬)の記事
 セルペルカチニブ、上市 (2021-12-14 06:00)
 CLIP1-LTK融合遺伝子の発見・・・LC-SCRUM Asiaから (2021-12-01 06:00)
 セルペルカチニブ、2021年12月13日発売予定 (2021-11-30 06:00)
 セルペルカチニブと過敏症 (2021-11-09 06:00)
 血液脳関門とがん薬物療法 (2021-11-08 06:00)
 根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか (2021-11-03 06:00)
 脳転移を有する患者集団に対しても、免疫チェックポイント阻害薬は有効なのか (2021-10-29 06:00)
 HER2エクソン20挿入変異陽性非小細胞肺がんに対するpoziotinib (2021-10-11 06:00)
 セルペルカチニブの添付文書 (2021-10-08 06:00)
 第4世代ALK阻害薬・・・TPX-0131とNVL-655 (2021-10-07 06:00)
 セルペルカチニブ、製造販売承認 (2021-09-28 06:00)
 HER2遺伝子変異陽性肺がんに対するtrastuzumab deruxtecan (2021-09-22 06:00)
 オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか (2021-09-21 06:00)
 EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法 (2021-09-20 06:00)
 中国人患者におけるRET阻害薬(Selpercatinib, Pralsetinib)の有効性 (2021-09-15 06:00)
 オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦 (2021-09-14 06:00)
 病勢進行後の治療をどう考えるか (2021-09-13 06:00)
 RET阻害薬、セルペルカチニブがやってくる (2021-09-09 06:00)
 進行が速い進行肺腺がんに遭遇したらどう振る舞うか (2021-09-06 06:00)
 ARROW試験のupdated data...RET肺がんとpralsetinib (2021-08-29 06:00)

この記事へのコメント
先日、テセントリクについて御回答いただきありがとうございました。

父は、ガンマナイフを受けました。
ただ、付き添いの母が言うには、脳に効くこともあるということを再度言っていたようです。。。

テセントリクを受けた翌週にガンマナイフをしたので、何か影響が無ければ良いなと思っています。

製薬会社も利益を出す為に、色々なことがあるのですね。

父が癌になって一番驚いたのは、クリニックでやっている自費の免疫療法の金額の高さです。HPには患者に希望を与える言葉を並べているので、これにかけてみよう!と思ってしまう人も出てくるのかなと思いました。幸いに、父は引っかかっていないので良かったです。
また、美容外科系列の病院でも、免疫チェックポイントの治療を自費で行なっているのも驚きました。重篤な副作用が起きた場合、誰が対処するのかと疑問に思っています。副作用が起きたら、総合病院に行かせるのでしょうか?現場の先生方は大変だろうなと思います。
関東の大手美容外科系列の病院では、ASCOにも当クリニックのアクセ○➕ブレー○法が掲載され、かなり効果があります!と記載がありますが、何人治療を受けて何人に効果があるんだろうと、医療知識が無い私は不思議に思っています。効果があるなら良いなと思いますが。
副作用が出た際に対応出来る病院のみが、免疫チェックポイントの処方を可能にして欲しいなと。。。癌難民が増えてしまいそうです。
医師免許があれば薬の処方は可能だから、なかなか規制は難しいのでしょうか?
Posted by ひまわり at 2018年06月11日 11:31
いつも拝読させて頂いております。ありがとうございます。当方患者家族です。三年前にALK陽性と診断され、アレセンサ、シスプラチン+アリムタ、アレセンサリチャレンジ継続中です。身内としてはプラチナ+免疫よりは分子標的薬+アバスチンや耐性克服などの治験がないものかと気を揉んでおります。
先生にお目にかかる機会はないと思いますが、いつも主治医の先生はじめ関係者の方には家族を救っていただいております。この場を借りて御礼申し上げます。
Posted by ありがとうございます at 2018年06月11日 11:35
ひまわりさんへ

 コメントありがとうございます。脳転移に対する治療が受けられたとのこと、良かったですね。きちんと臨床試験で確認されたわけではありませんが、放射線治療を受けた患者さんの方が免疫チェックポイント阻害薬の効きがよいという説があります。脳転移巣への放射線照射がどの程度関係するかはわかりませんが、お父さんに効果が出ることを祈っています。
 免疫をからめた民間療法はずっと以前から民間のクリニックでされており、独自のネットワークを持っているようです。「免疫細胞療法+免疫チェックポイント阻害薬」というようなたちの悪い組み合わせ治療が流行っており、大手の新聞の広告欄にも堂々と掲載されています。先入観を除いて公平にコメントしたとしても「治療実績が統計データとして示されていないので、有効とも有効でないとも言えない」というところでしょう。
 自由診療となると、規制は難しいのでしょうね。
 不適切なたとえ、と言われてしまいそうですが、合格祈願のためにお守りを買う人を馬鹿にしてはいけないように、万が一にも効き目が出てくれたら、と民間療法を選ぶ人を馬鹿にしてはいけないような気がします。
 理性のある行動かどうかはともかくとして。
Posted by tak at 2018年06月11日 15:05
ありがとうございますさんへ

 ありがとうございますさん、コメントありがとうございます。ご家族がALK陽性肺がんと診断されておられるとのこと、肺がんと診断されたこと自体は不幸なことですが、ALK陽性で、アレセンサが使える時代だったことは、せめてもの救いでしたね。私が経過を追跡しているALK陽性肺がん患者さんは、長生きしておられる方ばかりです。治療選択肢としてはまだセリチニブもクリゾチニブもありますし、いずれはブリガチニブやローラチニブ、さらにはそれに引き続く治療薬も出てくることでしょう。ALK陽性肺がんは耐性化した際のシステムとそれを乗り越えるための薬の組み合わせがかなりはっきりしているので、そうした診療体系が早く確立するといいですね。そう遠くない将来にそんな日が来そうですので、アンテナを張っておいてください。
Posted by tak at 2018年06月11日 15:13
先生、お忙しい中のコメント感謝です。アンテナをはります。
Posted by ありがとうございます at 2018年06月11日 20:58
ガンナイフの治療、受けることができて良かったです。

先生のおっしゃる通り、民間療法を選ぶ方もいますね。
申し訳ありません。。。

お返事ありがとうございました。
Posted by ひまわり at 2018年06月11日 21:24
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。