2017年12月23日

本当に、インフルエンザワクチン、うっていいですか?

 結局、ペンブロリズマブ投与継続中の患者さん、インフルエンザワクチンを接種した。
 その翌日から感冒様症状と右下腹部痛が出現した。
 ちょっと薄気味悪い。
 ペンブロリズマブを使用していなければ、副反応として片付けられるが、「右下腹部痛」というのはなんとも気色悪い。
 引き続く下痢、血便、大腸カメラ、ステロイド、インフリキシマブ、ペンブロリズマブ投与終了、など、いろんなキーワードが頭をかすめた。
 前提として、なるべく周囲の人に気付かれずに治療を続けたいという患者希望がある。
 胸膜播種、胸水貯留によるIV期腺癌、ドライバー遺伝子変異は全て陰性、PD-L1発現30%。
 初回治療のペメトレキセド単剤治療で病勢進行後、二次治療としてペンブロリズマブを導入。
 ペンブロリズマブ開始から120日を越えたため、先日PETで効果判定を行い、病勢安定の判断。
 腫瘍マーカーはやや減少傾向、本人の体力も保たれており、これまでの有害事象はG1の多形紅斑のみ。
 三次治療以降はS-1やドセタキセルを考えざるを得ない状況で、出来る限りペンブロリズマブで引っ張りたいと思っている。
 そんなわけで、インフルエンザワクチンのせいでペンブロリズマブ投与終了に追い込まれては、痛恨の一撃である。

 幸い、症状は自然軽快傾向のため、近日中にペンブロリズマブを投与する予定。
 ただし、その後にどういう経過をたどるか、引き続き注視する必要がある。

 先日、本ブログで「インフルエンザワクチン、うっていいですか?」という記事を書いた。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e920450.html
 これを読んでくださったある製薬会社の方から、「こんな話もあるようですよ」と情報提供を頂いた。
 どうもありがとうございます。
 こういうことがあると、身銭を切って、余暇をつぶしてブログを書くのも、悪くないなと思います。

 2017年の米国臨床腫瘍学会年次総会で公表された内容のよう。
 これを読んじゃうと、来シーズン以降は免疫チェックポイント阻害薬を使っている、使う予定のある患者さんに、インフルエンザワクチンを勧める気にはなれない。
 インフルエンザワクチンをうたなくてインフルエンザにかかるのと、インフルエンザをうってその後の免疫チェックポイント阻害薬が使えなくなるような有害事象に苛まれるのでは、事の重大さが大きく異なるような気がする。

 我が国でも同じような考え方で、
・季節性インフルエンザワクチン
・肺炎球菌ワクチン
接種について、免疫チェックポイント治療導入前、治療導入後、治療導入後でワクチン接種後の変化を調査するような観察研究を組んではどうだろうか。
 肺炎球菌ワクチンについては、免疫チェックポイント治療導入前に接種済みの方もいるだろうから、インフルエンザワクチンとは違った配慮が必要だろう。
 さらにいえば、ワクチン接種患者における治療効果がどのようだったかも見てみたい。
 有害事象は増えるけど、治療効果も高まると言われれば、おのずと治療戦術も変わってくる。
 がん研究者、免疫学研究者、感染症研究者が協力してことにあたる、よいモデルケースだと思うのだが。
  

Immune response and adverse events to influenza vaccine in cancer patients undergoing PD-1 blockade.

Heinz Philipp Laubli, et al

DOI: 10.1200/JCO.2017.35.15_suppl.e14523 Journal of Clinical Oncology 35, no. 15_suppl - published online before print.

背景:
 がんを患っている患者は、季節性インフルエンザウイルスに感染すると合併症を発症するリスクがある。現行のガイドラインでは、PD-1に関連した治療を受けている患者に対して、禁忌でない限りはインフルエンザ不活化ワクチン接種を受けてもよい、と記載している。今回の観察研究では、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けている患者に対するインフルエンザワクチン接種による免疫反応と安全性について調査した。

方法:
 ニボルマブもしくはペンブロリズマブの投与を少なくとも1回は受けたことのある進行がんの患者に対し、2015年10月から11月の間に三価不活化インフルエンザワクチンの接種を行った。患者の配偶者に対しても同様のワクチン接種を行い、年齢調整健常コントロール群とした。インフルエンザワクチンに対する抗体価をHI法を用いて接種7日後、30日後、60日後、180日後に測定した。末梢血中のサイトカイン・ケモカインや免疫担当細胞の動態も、がん患者においては同じタイミングで分析した。免疫関連有害事象は、CTCEA version 4.0で評価した。

結果:
 患者群は23人、年齢調整健常コントロール群は7人だった。PD-1抗体による治療開始からインフルエンザワクチン接種までの期間中央値は74日間だった。22人はニボルマブで、1人はペンブロリズマブで治療されていた。非小細胞肺がん患者が16人、腎細胞がん患者が3人、悪性黒色腫患者が3人だった。全体で、12人(52.2%)の患者が免疫関連有害事象を経験し、そのうち6人(26.1%)はGrade 3 / 4に該当した。これらの頻度は、文献的に報告されている一般の免疫関連有害事象頻度より高率だった。Grade 3 / 4の免疫関連有害事象は、大腸炎(2人)、脳炎(1人)、血管炎(1人)、肺臓炎(1人)、末梢神経障害(1人)という内訳だった。ワクチンに対する抗体価の経時的変化は認めなかった。末梢血中の白血球数、サイトカイン・炎症性ケモカインレベルは、ワクチン接種の前後で変化なかった。ワクチン接種部位の局所的な、想定外の有害事象は認めなかった。

結論:
 季節性インフルエンザワクチン接種による効果は、今回対象とした患者群では十分得られていた。しかし、想定外の出来事として、免疫関連有害事象の頻度が高まっていた。より大規模な調査とそれによるメカニズムの解明が望まれる。
 








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